壱ノ巻
由良の縁談
3★
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。あたしもすぐ行くから」
「違っ…るら…!」
高彬を無理矢理障子の向こうに押し出して、あたしは亦柾と向き合った。
「なんでしょうか、亦柾さま」
「用件はひとつです。私の真名は言いました。あなたの真名もお聞かせ願えないでしょうか」
「………北、ですが?」
「いいえ。違いますね。それは仮名だ」
………なにか……話がマズイ方向に進んでるような…。
ひやりと背中を汗が伝う。
「一体何が違うとおっしゃられるのでしょう。私の名は北です。それのどこがご不満なのでしょうか」
「あなたは、忠政どのの妻と、正室というには声も手も若すぎる。由良姫は、好きな男がいて、私に嫁ぎたくなくて、泣いていた。あなたはそんな由良姫が可哀想だから、北どのの名を騙ってまで私と話をつけに来た。違いますか、姫」
「違います。私は、北です。少なくとも、あなた様の前で語る名は、これより他にはありません」
あたしの言葉を受け止めて、亦柾は目を大きく見開いた。
そして、笑った。今までの胡散臭い笑みとは違った、素直な笑みが零れる。
「なるほど。すばらしい人ですね、あなたは。機転が利いて、頭の巡りがいい。度胸もある。由良姫はなかなかかわいらしいとの噂が届いていましてね。佐々家と今どうしても手を組まなければいけないということもないけれど諦めるには半ば惜しいような気もしましたが…由良姫は、もう、いいです。由良姫よりも、あなたが欲しい」
ふいにさっと立ち上がったかと思うと、あっという間にあたしの目の前に来た。
あたしとは頭ひとつ分も違う。気おされて亦柾の顔を見上げることもできず横を向いた。
「せめて、あなたの御名だけでもお聞かせ願えないかな?仮名ではなく、真名を」
「…嫌だといったら、如何しますか」
「そのときは、今ここで気絶させて、徳川家まで、持って帰りましょうか。そこで既成事実を作るもよし、祝儀を上げるもよし。姫、無駄な抵抗はやめて、さっさと吐いたほうが楽ですよ。わたしが名前を聞くだけで満足している間にね。さ、お聞かせ願えないかな?」
「……由良」
すると、また亦柾は笑うのだ。
「姫。自分が由良姫だと言って、それで通じるとお思いかな?由良姫は、可愛らしい、のですよ。私は仙ではないのでその被きの下は見えないが、どうもあなたは可愛らしいというには大人びすぎている。と、言って北どのを騙るにはまだ若すぎますがね」
「………」
ああ、高彬と一緒に
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