壱ノ巻
由良の縁談
3★
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人も、3人。
「…さて」
老人を連れて行った男達の足音が遠ざかると、嫡男は肩の力を抜いたように喋りだした。
「煩いのもいなくなったことだし、せっかくですからお話でもしていきませんか、北どの」
「あら。ですが、お話をするのでしたら私よりも歳の近い高彬のほうが…」
「私とでは、不満ですか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「ならばよろしいでしょう?ああ、私の名前を名乗っていませんでしたね。勿論御存じでしょうが…徳川洪一郎亦柾(とくがわこういちろうやくまさ)と申します」
「はぁ、亦柾どの」
嫡男の名前なんて知らないわよ。興味ないし。
あたしは話の展開についていけずぼんやりと名前を繰り返す。
ふいに亦柾の瞳が強くあたしを捉えた。
…何?
すると突然、高彬があたしの腕をつかんで立ち上がった。
「亦柾どの。話も済んだことですし私どもはこれで下がらせていただきます。母は未だ病を得ている身です。御身にも障るといけませんし。失礼いたします」
あたしは驚いてこそこそと高彬に話しかけた。
(ちょ、ちょっと高彬、どうしたのよ。いくらなんでもこれは失礼じゃ…)
(瑠螺蔚さんはなんにもわかってないね。今は一刻も早く、ここを去るべきだ)
高彬はぴしゃりと言った。
そのまま、あたしをぐんぐんと引っ張って、部屋から何も言わずに出て行こうとする。
「ね、ねぇ本当に、ちょっと待って。痛いってば。ねぇ!」
「お待ちください」
急に、亦柾の声が響いた。
「早く帰りたいとおっしゃるのでしたらお止めはしませんが。ですが、せっかくの機会にひとつだけお聞かせ願えないでしょうか?」
「行くよ瑠螺蔚さん」
高彬がこわばった声で言う。腕を引く力も強まる。
あたしはそれでも立ち止まったままでいた。
だって、ここで変に機嫌を損ねて、やっぱりこの縁談の話、なかったことにしませんー・・なんてことになったら困るじゃないの。
由良の泣き顔も見たくないし、任せてといったあたしの立つ瀬もない。
それに主の織田様直々の申せではないとはいえ独断かつ無条件で佐々との縁談をなかったことにしてもいいというこの男の真意も気になる。ぶっちゃけ、不気味なのだ。
「瑠螺蔚さん!」
「いいじゃないの。ひとつだけだというんだし」
「でも!」
「じゃぁ、あんたは外に出てるといいわ
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