壱ノ巻
由良の縁談
3★
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。
そう来たか、とあたしはお腹にぐっと力を入れた。
御母君とわざと言うからには、今日、あたしがここに呼びつけた用事はわかっているはず。
この人、優男のような外見と違わず、頭がいい。
「お初、御目通りいたします。佐々右衛門忠政が妻、北(きた)でございます」
「北とは『子』をも意味する名。そちらの高彬殿や、由良姫のような健やかなる子をお産みいたしているわけです。いい名ですね」
「ありがたく存じます。あなた様は聡明で有らせられます。私などがいろいろ言っても詮無きこと。単刀直入に申し上げます。由良との縁談、なかったものにしていただきたい」
「おやおや…それはまた、どうしてですか」
嫡男は笑顔のままであたしに問う。
「由良には好いた男がございます」
高彬が横でぴくっと反応した。
「それはそれはめでたいことですね」
「そうでございましょう」
「私にだって好いた女ぐらいいますよ。何人もね。それで、何か佐々と徳川の縁談に不祥事が生じるのですか?」
ニコニコと笑いながら嫡男は言う。
好いた女が何人も…ね。
ケッ。てめぇなんかに由良は任せられないわ、やっぱり。
「女は誰でも好きな男のもとへ嫁ぎたいものでございます」
「つまり私では由良姫の相手に不十分だと」
ぴり、とその場に緊張が走る。
「いいえ。そのように申す訳がございましょうか。由良には由良の都合があるのです。いきなり知らない男と祝言をあげろといわれ、心から頷く女がおりましょうか。皆、断腸の思いで頷くのです。女を泣かせるは男の恥。女は、好いた男のもとへ嫁ぐのが一番の幸せ。故にこのお話、お断りしたく存じます」
「家の利益よりも娘の幸せをとりますか。佐々の御内室が」
「徳川家とはまた後ほどご縁がありますように」
「わかりました。娘を思うその心に折れましょう。この縁談、無かったものと致します」
「わ、若殿っ!?」
嫡男の後ろに控えていた老人が泡を食って叫んだ。
「こ、こ、この話はあれほど大切だからと…!」
老人は喋り終わらないうちにう〜んと唸って倒れてしまった。
よほどショックだったらしい。
それを見かねてか、外に控えていた従者が二人がかりでその老人を運び出して言った。
嫡男についていた供は、部屋の中にいる人数で3人。
出て行った
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