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犬との最後の別れ
第三章

[8]前話
「ベラを連れて来たよ」
「そうしてくれたの」
「だから」
 それでというのだ。
「最後に」
「ええ、それじゃあ」
 妻も頷いてだった。
 ベラを抱き締めた、そのうえで彼女に言った。
「今まで有り難うね」
「クゥ〜〜ン・・・・・・」
 飼い主のことをわかっているのかベラは悲しそうな顔で悲しそうに鳴いた、だが妻はその彼女に優しい声で話した。
「私は天国に行くから。そこで幸せになるから」
「クゥン」
「お父さんと仲良くね。そして天国でまた会いましょう」
 こう言うだった、そうして一時間程抱き締めた後で。
 彼女に顔を舐められた、その光景を隠れてみてだった。
 医師は共に見ていた助手に話した。
「こうした時はだよ」
「わかっていてもですね」
「気付かないふりをするものだ」
「衛生的に問題ないなら」
「他の患者さん達に迷惑をかけないならね」 
 それならというのだ。
「それでいいんだ」
「そういうことですね」
「最後のお別れなんだ」
 それならというのだ。
「適えてあげよう」
「そういうことですね」
「うん、ではね」
「はい、後はですね」
「我々の仕事をしよう」
 こう言って助手を連れてその場を後にした、そうして。
 数日後妻の臨終を夫と共に看取り病院側がすべきことを行った、医師がそれが終わってから助手にまた話した。
「医者は身体を救うだけじゃないんだ」
「心もですね」
「そう、人の心もだよ」
「救うべきなので」
「ああした時は」
 人の命が消えようとしている時はというのだ。
「あの様にね」
「心を向けることですね」
「そうだよ」
 そうべきだというのだ。
「だからね」
「これからもこうした時は」
「ああしていこう」
「そうですね、心残りなく旅立ってもらう」
「その為にもだよ」
「そうしていきますね」
「これからも」
 こう助手に話した、そのうえで今の受け持ちの患者のところに行った。彼等の身体だけでなく心を救う為に。


犬との最後の別れ   完


                     2021・8・30
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