第一章
[2]次話
モノクロの世界を変えたもの
吉川育三と正美の夫婦はお互いに定年を迎えて久しく子供達は全て独立した、それでだった。
もう思い残すことはないという顔で日々を過ごしていた。二人共白髪頭で顔は皺だらけで動きも遅くなっている。
夫はその中で妻に言った。
「もう後はな」
「ええ、金婚式も迎えたし」
妻は穏やかな顔で応えた、二人だけの家の中で。
「もうね」
「思い残すことはないし」
「ゆっくりと過ごそう」
「最期の時まで」
こうしたことを話してだった。
夫婦で別に楽しいことも嬉しいことも求めず暮らしていった、悲しみも苦しみもないが歓びももういいと思っていた。
だがある日だ。
「ニャ〜〜〜・・・・・・」
「お祖父さん、あそこに」
妻は庭に一匹の猫を見て言った、その猫は。
小さな子猫だった、生まれてすぐの様だった。かなり汚れていてしかもボロボロだった。妻はその猫を見て言うのだった。
「子猫がいるわ」
「随分ボロボロだな」
「野良猫みたいね」
「首輪もしていないし」
「だったら」
それならとだ、妻は言った。
「親も近くにいないみたいだし」
「それだとな」
「助けてあげないと」
「どうなるかわからないな」
「それじゃあね」
「ああ、家に入れてあげて」
「ミルクあげてね」
そうしてというのだ。
「その後で病院で診てもらいましょう」
「そうしよう」
夫も頷いた、そしてだった。
夫婦は庭に出て猫を優しく抱え上げてだった。
まずは家の中に入れて台所で皿に入れたミルクを出して飲ませてだった。
落ち着いたところで病院に連れて行った、すると。
特に病気はなく性別も雄とわかった、それでだった。
二人は猫を正式に家族に迎え入れて名前をコテツとした、それから。
コテツにトイレを教えたりご飯をあげたり首輪をかけたりしていつも世話を焼いた、そうするとだった。
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