第六部 将家・領民・国民
第八十二話 指し手はもう一人
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れた男は香の匂いを嗅ぎ、やれやれ、と肩をすくめた。
「唆されちゃったな」
子供みたいな口調でつぶやき、豊久はきまり悪そうに細巻に火をつけた。
“女性運動”か!いやはや遊び道具まで『いい子』だ、いや変に善悪にこだわるのは俺の病根だろうか。
馬堂豊久は重くため息をついた。
――まったく“馬堂豊久”とは不健全極まりない男になったものだ!恐ろしい女に惚れ込んでしまったものだ、畜生!
「‥‥怖いなぁ、女って」
それでも”豊久”は今日、この日に弓月茜に”惚れ直して”しまった――正確に言うと(あるいは新城直衛や周囲の人間に言わせると)数年かけてようやく惚れていることを自分で認めたのであった。
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