第六部 将家・領民・国民
第八十二話 指し手はもう一人
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皇紀五百六十八年 十月十四日 東洲 要江市 東州公領港湾処庁舎 貴賓室
「成程ねぇ、面白いこと考えるじゃない」
「はい、公爵夫人。蓬羽も後援に回ってくださります。ぜひご協力をいただければ」
蓬羽という言葉に瑠衣子は眉をあげる。
「それだけかしら?おかしな話、ならば弓月の家の者ではなく内務の役人が来る話よねぇ?」
「いいえ、これはあくまで”運動”です。官は表に出してはならないのです」
「ふぅん、そう、運動、運動、ね。なぁるほど、天領はずいぶんと変わったのね」
瑠衣子は微笑した。
「若い人はいいわねぇ、柔軟で勇気がある――」
「いいわ、のってあげる、その代わり、貴女に貸しを一つ」
「弓月ではなく?」
「そうよぉ、貴女に貸すの、それが一番“効く”でしょ?」
瑠衣子は人が悪そうに微笑した、だって、わたしもそうだもの、と言いながら。
茜はため息をつく、矜持か善性か、あるいは信用か、はたまたまったく別の何かか――あるいはその全てか――は問わず、それは事実であった。
「まあ乗ること自体は悪いものではなさそうだし、お嬢さんへの餞でもあるのは事実よ?」
瑠衣子はくすり、と笑う。
茜は深々と頭を下げ、席を立つと瑠衣子はその背に向けて言葉をかける。
「頑張りなさい、女がこの遊びをするのはひどく生きづらいものよ?」
「えぇ駒洲でそういった忠言をたっぷりと浴びてきましょう」
瑠衣子はあらお熱い、と声をあげて笑った。
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皇紀五百六十八年 十月十八日
馬堂領 馬堂家屋敷
馬堂家嫡男 馬堂豊久
ぼんやりと滑稽本を読んでいるのは駒洲が誇る英雄の一人にして忠臣と称えられる馬堂豊久陸軍大佐である。
「あら――お休みでしたか」
聞きなれた声に豊久は目を見張る。
「茜さん」
起き上がろうとする豊久を茜は手で制する。
「まだ完治していらっしゃらないでしょう?無理に礼をとらせては弓月の名折れです」
六芒郭解囲作戦の際に彼は突入した大天幕の倒壊に巻き込まれ、肋骨を骨折していた。
「楽になさって、お土産がありますよ?」
「〈皇国〉厚生婦人協会?」
ずらりと弓月の閥のみならず五将家に連なる安東瑠衣子や蓬羽兵商女主人の田崎千豊を筆頭に女名士や名士の妻娘達が並んでいる。
「一通り繋がりがある方々に声をかけて動かすつもりです」
彼らが声をかけて従業員や兵士の妻娘を参加させる、その内容は傷痍軍人の支援に戦災疎開民への支援事業、なるほど――
豊久は素直に感心した。
「さすが弓月伯は面白いことを考える」
情報収集を行えば不満が溜まる層を扇動する不穏な動きに対する初動の速さを確保できる。衆民警察官僚が
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