第7節「歌姫の帰還」
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保護観察が終わる少し前のこと。
私を名指しに、1人の黒服がタブレットを持って面会にやってきた。
タブレットに表示された書面の一行目には、『Legal Transaction Agreement』と記されていた。
その内容は、国家安全保障局が提案する筋書きに従えば、私の基本的人権を回復するというものだ。
「私にこれ以上嘘を重ねろとッ!?」
「君の高い知名度を活かし、事態を出来るだけ穏便に終息させる為の役割を演じて欲しいと要請しているのだ」
「役割を演じる……?」
「“歌姫マリアの正体は、我ら国連所属のエージェント。聖遺物を悪用するアナキストの野望を食い止めるために、潜入捜査を行っていた”──大衆にはこれくらい分かりやすい英雄譚こそ都合がいい」
黒服は両腕を広げて笑っていた。この条件なら、私が従わざるを得ないと思っているのだろう。
「……再び、偶像を演じなければならないのか」
「偶像。そうだ、偶像だよ。正義の味方にしてアイドルが、世界各地でチャリティーライブを行えばプロパガンダにもなる」
次の瞬間、私と黒服を隔てる防弾ガラスが、鈍い音と共に振動した。
「冗談じゃねぇッ!テメェらの尻拭いに、マリィを利用しようって事じゃねぇかッ!」
私一人が呼び出されると知って、看守に無理を言ってついてきたツェルトが、防弾ガラスを思いっきり殴り付けた音だ。
殴ったのは生身の左腕ではなく、義手である右腕。生身に比べて痛みは無いかもしれないが、義手でも振動は伝わるはず。
それでもツェルトは、そんな素振りは一切見せずに黒服を睨み付ける。
「君にとっても悪い話じゃない筈なんだがね」
ツェルトの射抜くような鋭い視線に竦むことも無く、席から立ち上がった黒服はこちらに背を向けながら続けた。
「米国は情報隠蔽のため、エシュロンからバックトレースを行い、個人のPCを含む全てのネットワーク上から関連データを廃棄させたらしいが……」
黒服の話と共に、タブレットのページが切り替わり、3人の人物の画像と概要が表示される。
「彼女や、君と行動を共にした未成年の共犯者達にも将来がある」
「「ッ!?」」
そこに映っていたのは、私と共に監房に囚われている調と切歌。そして、おそらく学園から出てきた瞬間を離れた地点から撮影したのであろう、立花響の姿であった。
「たとえギアを失っても、君はまだ誰かの為に戦えるということだよ」
「くっ……この……ッ!」
歯を食いしばり、私の分まで怒ってくれるツェルト。こんな時まで私の事を思ってくれる彼が、心の底から頼もしい。
約款にはツェルトの処遇についても書かれていたが、自分だけが自由になる事を彼は望まなかった。
そして、私とツ
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