第三百二十六話 歯は大事その一
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第三百二十六話 歯は大事
僕は香織さんに歯のことをさらに話した。
「伊達政宗さんも大変だったけれどルイ十四世もね」
「フランスの王様よね」
「うん、あの人もね」
「歯が殆どなかったの」
「この人は全部だったよ」
「一本もなかったの」
「変なお医者さんがいてね」
このお医者さんのことも話した。
「歯が万病の元とか言って」
「そんなこと言ったの」
「それで歯は一本残らず」
それこそだ。
「抜いてなくすべきと主張していたんだ」
「物凄い主張ね」
「それでこの人が王宮にも影響力が強くて」
「ルイ十四世もなのね」
「それならとね」
「歯を抜いたの」
「最新医学の正しさを示すのも王の務めと思ったかも知れないけれど」
それか興味を持っただけかも自分の健康を考えたのかも知れない、この辺りは僕にはよくわからない。
「それでね」
「全部抜いてもらったの」
「麻酔なしでね」
「麻酔なしって」
香織さんはそのことに唖然となった。
「それはまたね」
「痛そうだよね」
「滅茶苦茶ね」
「そうして抜いて」
本当に一本残らずだ。
「この時手術に失敗してね」
「歯を抜いただけじゃなくて」
「お口の上の部分とお鼻がつながったんだ」
「それも酷いわね」
「しかも抜いた後でね」
悪いことは続くと言うべきか。
「抜いた後を収める為にそこにハンダゴテを入れて」
「ハンダコテ!?」
「それで歯を抜いた後を焼いて平らにしたんだ」
「それも痛そうね」
「これも麻酔なしでしたんだ」
「最後まで酷いわね」
「それでどうなったかっていうと」
これがだ。
「わかるよね」
「何も噛めなくなったのね」
「そのせいで流動食みたいなのしか食べられなくなって」
そうしてだ。
「しかも消化不良にもなって」
「噛めないから」
「慢性的な下痢になったんだ」
「最悪よね」
「しかも食べたものはお鼻から出る様になって」
お口とつながったからだ。
「歯も磨けなくなったししかもここでもお鼻とつながったから」
「ああ、口臭も」
「凄くなったんだ」
「いいこと何もないわね」
「そうなったんだ」
「とんでもない藪医者ね」
「森鴎外より酷いかもね」
脚気についてとんでもない失敗をしたこの人よりもだ。
「実際に」
「そうかも知れないわね」
「それでも七十九歳まで生きたけれどね」
歯を全部抜いたのは四十一歳の時だったというのだ。
「ずっと大変だったと思うよ」
「全部藪医者のせいね」
「世の中こんなお医者さんもいたんだ」
「何を見てそんなこと言ったのかしら」
「それが不思議だけれど」
僕にしてもだ。
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