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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
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はいはい」と適当に挨拶をした綴の前を後にする。そのまま入室した時と同じ謹厳な態度で教務科から退室すると、何故だか不意に笑みが口元から溢れてきた。どうやらアリアも同じようで、2人して顔を見合わせながら何がなしに笑う。
そうして歩を踏み出した。意外に蘭豹と綴が優しかっただとか、期待されてるのも重荷だとか──そんな他愛のない話をしながら、もともと歩いてきた廊下を逆再生するように進んでいく。

「あっ、そうだ」矢庭にそう切り出した自分の声を聞いて、「どうしたの?」と彼女が訊いた。
「いやね、装備科に行こうと思って。文のところだよ。確か昼休みも工房にいたはず」
「平賀さんのところ? そんなに急ぎの用事なんてあったっけ……」アリアは考えるようにして、可愛らしく人差し指を口元に当てる。歳頃の子供のような愛嬌が爛々と振り撒かれていた。


「ほら、昨日の放課後に文のところに行ったでしょ? そこで装備の点検を──」


そこまで言ったところで、アリアは不意に立ち止まった。何か気になるものでもあったのだろうか、と彼女の目線の先を追うものの、そこには単なる廊下が続くだけで2人以外に誰も居ない。
「アリア、どうしたの?」茫然としているらしい彼女の顔を覗き込みながら、そう問いかける。
「……彩斗、ごめん」消え入りそうな声で、アリアは呟いた。決まりが悪そうに自分から目を逸らして、彼女には似つかわしくない、一種の罪責感にでも苛まれたような面持ちをしている。


「彩斗の装備、本当なら銃くらいは点検が済んでたはずなの。でも、アタシが平賀さんとお話しちゃってたから、まったく点検が進まなくて……。帰ったら伝えようと思ったんだけど、色々と考え事してたし、ちょっと騒ぎもあって、それどころじゃなくなっちゃって……。ごめんね」


両の手を胸元で握りながら、降り始めの雨のようにしてアリアは零す。細細とした口調のなかに聞こえた『ごめんね』という4文字だけは、際立って明瞭としていた。真っ直ぐと自分を見据えた赤紫色の瞳には、衷心の色が滲んでいて、そこに彼女の性格の一部分が垣間見えたような気がする。アリアが悄然としている様は、やはり平生と比較しても似つかわしくない。けれど、それが何だかおかしく見えてきてしまって、不意に笑みを零してしまったのは、自分の失態だった。


「……ふふっ。アリアは悪くないよ。確かに依頼をしたけど、それを昨日中に済ませてくれと頼んだわけじゃないでしょう。その時点で日を跨ぐ可能性は考えてた。それに、そう依頼した以上は──仕事は文の領分なんだ。君が文と何を話していたかは知らないけど、むしろ君の話に傾注してくれていたんでしょう? どうだい、文に『お願いしたいこと』はきちんとお願いできた?」


今の今まで悄然としていた彼女の面持ちが
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