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おぢばにおかえり
第六十五話 心配していてその二十八

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「そうだと思うわ」
「それで気付いて反省したのはわかるけれど」
「やっぱり酷いことしたっていうのね」
「前に言ったでしょ。千里達がそんなことしたら許さないって」
「ええ、そう言ったわね」
「神殿のことも校門のことも絶対にしたら駄目なことよ」
 どちらもというのです。
「若し自分が直接何かされてもね」
「相手の人を傷付けるから」
「嫌いな相手なら何をしてもいいんじゃないでしょ」
「それはね」
 私もわかることです。
「絶対にしたらいけないことよ」
「そうよね」
「若し自分がされても同じことをしたら」
 その時はというのです。
「自分は嫌いな相手と同じ人になるのよ」
「何も変わらない」
「そうなったらいい筈ないでしょ」
「ええ」
 私にもわかることでした。
「絶対にね」
「そう思わないといけないものよ」
「人は」
「嫌いな相手と同じになってもいいからやり返すっていうなら」
 世の中そうした考えの人がいることはわかります、阿波野君もどうもそうしたタイプみたいですし。
「こんな気の毒なことはないわ」
「嫌いな相手と同じになることは」
「もうね、ええと」
 ここでお母さんが言うことはといいますと。
「深淵がっていうわね」
「深淵?」
「ええと、ニーチェっていう思想家がいて」
「難しいお話?」
「そうなの、深淵を見ていると」
 何かかなり難しいお話になりました。
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