第一章
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私は、この春、地元の大学を卒業して、港湾設計の会社に就職した。食品会社に就職していて中学からの仲良しの なずな とたまに食事に行く以外は、家と会社の往復といった生活だ。入社して、もう、半年が経っていた。
高校、大学と共学だったが、私は、プライドが高いわけでは無いのだが、思うような男の人は現れなかった。声を掛けられたことも、何度かあったが、気が進まなかったので、まだ、男の人とふたりっきりでデートもしたことが無かった。だから、手をつないで歩いたこともなかった。
なずなは、大学の時に、合コンで5ツ年上の人と付き合っていて、その人を通じて何人か紹介されたが、気が乗らなかった。ただ、最近、会社の取引先の人から、しつこく誘われている。どうも、信頼出来ないから、断ってきたが、あんまり冷たくも出来ないでいる。
その日も、退社して真っすぐに帰ってきた。玄関の横で、チッチは寝たままだ。ご主人が帰ってきたのに、無視したままだ。彼は、夜7時にならないと家の中に入ってこない。お腹がすくからだ。いつからか、こんな風になってしまった。多分、私が、大学受験で構わなくなった時からかもしれない。でも、最初から、私が、可愛がっても、思いが通じなかった。プチの時とは、違うと思いながら、誰にも懐くことなく、すでに5年以上になる。もう、彼も年なのかも知れない。
7時になり、チッチを呼んだが来ない。どこか散歩にでも行ったのかと、ほっておいた。私は、夕食の準備をして、8時前、いつものようにお母さんが帰ってきた。駅前の洋品店に勤めているのだ。お父さんは、いつも9時頃になる。それから、みんなで晩御飯になる。私は、二人姉弟だけど、弟は東京の大学で独り暮しだ。
「お母さん、チチ、居なかった? 呼んでも、居ないみたいだったのよ」
「ええ、気が付かなかったけど・・ 気まぐれだからね、あの子 そのうち、帰って来るわよ」
「そうよね 私、先にお風呂入るね」
お風呂からあがって、髪の毛をタオルで乾かしながら、二階の部屋の窓から風を入れていると、網戸の向こうの柵にチッチが現れて、鳴いた。
「チッチ? お前、ここまで、来れるの?」
今まで、そんなことは一度も無かった。プチは、よく、窓から入れてあげたけど・・。部屋に入れてあげると、ベッドに座っている私の横に来て、顔を摺り寄せて来る。チッチはそんなことはしない。頭を撫でながら
「チッチ どうしたの? 今日は 変じゃない?」
「すずりちゃん 髪の毛、切ったんだね それも、可愛いよ」
私、空耳? 声が聞こえた それも、頭ん中で、響いたみたい。
その時、下からお母さんの声がして、「ご飯よ」と呼ばれた。
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