誘惑
[1/7]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「こんなところに来て、どうしようと言うの……?」
紗夜は、チケットを握りつぶしながら自問した。
数日前、日菜から手渡されたライブのチケット。複数のアイドルグループが合同で行うそのライブは、今日の夕方から、見滝原ドームで行われる。
まだ数時間もある。青空がまだ残る空を見上げながら、紗夜はため息をついた。
その時。
見滝原ドームの裏手。倉庫らしき建物から、大きな音が聞こえてきた。
金属を、無理矢理こじ開けた音。
「何……?」
好奇心は猫を殺す。そんなことわざが一瞬過ぎったものの、紗夜の足は逆らうことが出来なかった。
敷地の周りにある柵により、中の様子を窺う。
倉庫の中が、暗くてほとんど見えない。
「……開いてる」
柵のすぐそばにある入口。押しで入れるそれは、施錠されていなかった。
紗夜がドアノブに手をかけると同時に、さらに中から騒がしい音が聞こえてくる。ゆっくりとドアノブを回し、内側に入る。
「失礼します……?」
どうしてこんなに気になっているのだろう。
そんなことを思いながら、紗夜は立ち入り禁止の区域に足を踏み入れる。
かび臭い匂いが鼻を刺し、暗闇を紗夜は見渡した。
異常などない。そもそもあったところで、紗夜の知ったところではない。
戻ろう。そう、紗夜が決断したその時。
「……ッ! ……ッ!」
息を切らして倉庫から現れたのは、紗夜と同じくらいの少女だった。
紗夜とは異なる学校の制服。だが彼女の顔からは、夥しい量の血が流れており、服も体も真っ赤に染まっていた。
「な、何があったの……?」
紗夜が声をかけようとするが、少女は聞かない。フワフワのピンクの髪飾りを落としたとて、彼女は足を止めずに街へ去っていった。
「どうしたの……?」
通報しようとスマホを取り出すが、その動きは止まる。
紗夜の視界の端に、やがて白が現れた。
何やら混乱している様子の少女。壁伝いにノロノロと歩いてくるのは、スク水の少女だった。
「あなたは……!」
その姿に、紗夜の顔から血の気が引く。
水着姿の、ヘッドホンを付けた少女。
その名は、スイムスイム。
「ッ!」
紗夜の姿を見たその瞬間、スイムスイムの顔付きも変わった。
「……マスターの……敵……!」
彼女が手にしているのは、サバイバルナイフ。以前彼女が持っていた長槍は、赤のヒューマノイドとの戦いで消失していたのを紗夜が目撃している。
彼女は、そのどこでも手に入るような凶器を、紗夜へ向けた。
「っ!」
引き攣った顔で恐怖を覚える紗夜。しかも彼女の体には、あちらこちら赤い付着が彩られている。
そして、スイムスイムの目は、はっきりと
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ