誘惑
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!」
「この姿の時は、霧崎と呼んでいただきたい」
トレギアの人間態、改め霧崎は、にやりと笑み、お辞儀をする。
彼が傘を下ろす。すると、入口から見える空に黒い雲が広がりだした。
幾何の時もなく、気温が下がる。
降り出す雨に、紗夜は体を震わせる。
昇っていく白い息の合間から、人間の姿のトレギア、霧崎が語った。
「改めて言おう。私は、君の願いを叶えにやって来た。聖杯戦争も、防衛も必要ない。君は、私が守ってあげよう」
「! こ、来ないで!」
紗夜は、引き続き白いアイテムを霧崎に向ける。
だが、やはり抜けない。白いアイテムのそれは、まるで最初から一つだったかのように、動かなかった。
「どうして……!? 私には、使えないというの……?」
「簡単なことだよ」
「動いて! お願い! 動いて!」
「今回選ばれたのは君じゃない。そんな奴がそれを持ったところで、それは動かないよ」
「そんな……」
自己防衛のために、ココアからこれを借りた。だが、全くの無用の長物。その事実に、紗夜は膝を折った。
「だが、安心していい。私は君の味方だ」
霧崎は、紗夜の頬から首筋までに手を泳がせる。
雨による気温低下も相まって、彼の手はとても冷たいものだった。
紗夜は拒絶の言葉を吐きながら、その手を振り払う。
だが、霧崎はほほ笑みながら、紗夜の顎を掴む。
「命の安全は保障しよう。それに、君は、妹を見返したいのだろう? ならば、私が君の全てを満たしてあげよう」
「やめて……」
だが、だんだん紗夜は霧崎を拒絶できなくなっていく。彼を突き飛ばす腕の力が入らず、やがて彼に掴み返されてしまう。
「期待しているのかい? 何かが得られるのではないかと。妹を見返せる、力が手に入るのではないかと」
「やめて……!」
トレギアに背を向け、逃げようとする。だが、彼はすでに紗夜の腕を掴み、引き寄せる。さらに、空いた腕で首を締め上げ、紗夜は完全に逃げられなくなる。
「おやおや。そう逃げないでくれよ。私はなにも、取って食おうとしているわけじゃないんだ」
「いや……!」
もがく紗夜だが、ただの一般人に、超人的な力を持つトレギアから逃れることなどできない。
「いいのかい? またとないチャンスじゃないか。私は君を気に入っている。妹が生涯かけても手に入らないものが、君は何も労なく手に入れられる。素晴らしいじゃないか。それとも君は、永遠に妹の日陰者のままでいいのかな?」
「違います……」
紗夜は顔を背ける。
だが、霧崎は紗夜の肩に手をかけた。
セクハラだと叫ぼうとしたが、それよりも早く、彼はアイマスクを紗夜に被せる。
以前、霧崎がトレギアに変身する際に使ったア
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