第一物語・前半-未来会議編-
第十五章 青の雷竜《2》
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日来の長は頭から血を流し、ピクリとも動かない。少し呼吸があるようだが、体の骨の幾つも折れているため動けないだろう。
本当にこの勝負が終わったのか疑わしい。
また立ち上がってくるのではないのか、そう思う。
だが、彼は動かなかった。
隙を伺っているのではない、体が動かないのだ。
今の彼を無力と判断した実之芽は、身体を反転させ、青のドレイク級戦闘艦へと向かい歩き出した。
周囲の者達は無言で、ただ自分が歩いている様子を追うだけだ。
事態がまだ把握出来ていないのだろう。
実之芽は勝ったことを告げるように、離れた場所にいる黄森の隊員に言葉を投げた。
「日来の長は戦闘不能よ。怪我の具合が酷いから病院へと運んだ方がいいわ」
「お前の方は大丈夫なのか?」
こちらへ走って来た、黄森の中年の隊の隊長が心配の言葉を掛けた。
それに頷き、口を開く。
「ええ、平気よ。それにしても、久しぶりに使った神化系術は慣れてなくて使いにくかったわね」
「久し振り? あんなに扱えていたのにか……」
ぼそりと言葉を吐く黄森の隊隊長の様子を見て、実之芽は息を吐いた。
疲れからきたのと、こちらの虚勢が通じたと安心した息だ。
後は頼んだわ、とそう告げ自分の艦へと戻る。
まだ発動中の神化系術は、力を見せつけるために艦内へと入るまで発動しておく。
汗がベタつき、早くシャワーを浴びたいと、少し急ぎ足で歩いた。
しかし艦にはシャワー室は設けられていないため、吸水性の符で汗を拭うことになるだろう。
そんなことを考えながら、歩き続けた背後。声が聞こえた。
「あいつ、あんな状態でまだやる気なのか!?」
その声の持ち主は、さっき話した黄森の隊隊長のものだ。
だが、実之芽は振り向かない。
もう相手にする程ではない、そう告げるため。
「宇天の隊長よ、どうするのだ?」
黄森の隊隊長から問われた。
答えは一つだ。
「手は出さなくていいわ。彼はもう既に負けたのよ」
冷たい言葉が、黄森の隊長へと届いた。
しかし、それを認めないと聞こえてくる声があった。
「ま、だだ。俺はまけ、て……なんか、ねえぞ」
日来の長の声が、背後から聞こえた。
雨に濡れた地面が鳴り、こちらへ歩いて来るのが分かる。
足取りは遅く、一歩ずつのテンポがおかしい。
早くなったり、遅くなったり、一置きしたり。と様々だ。
「貴方まだ動けるの? 貴方こそ本当に人族?」
「ふ、まあな」
彼は鼻で笑い、応答した。
「まだ動ける、だから、負けじゃねえ」
「無理はするものではないわ」
「無理かどうかは、俺が、決めるさ」
彼をそこまで動かすものは何なのだろう、と実之芽は思う。
あそこまで傷ついて、私達の長に何を伝える気なのだろう。
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