羽の生えた戦車が欲しい
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「以上の理由から、開発期間の延長と、予算の追加投入をお願いします」
締め切った薄暗い会議室で一人の銀髪の女性が、黒板に書いた細かい数値や、大きく広げられて貼られたブループリントを、物差しで指しながら何かを説明しおえた。
「無理だな、荒唐無稽な話だ。君はカールスラント人だろ?だったら与えられた期限と予算は守るべきだ、最初からそう言う約束だったはずだ」
向かい側の席に深々と腰掛けるでっぷりと太った男が、彼女の要求を鼻で笑いながら返す。
「しかし、今のままでは!」
「おい、少し熱いな、暖房を弱くできないか?」
銀髪の女の反論を太った男は軽く遮り、部下に暖房の温度を下げるように言った、真冬だというのに、この部屋は相当暑い。主な原因は彼の吐く暖かな息が部屋を徐々にあたためているからだが。
「今のままでは、当初の計画にあった「究極のストライカーユニット」は開発できません」
銀髪の女性がゆっくりと椅子に座りながら太った男の目をまっすぐ見ながら淡々と語る。
「ヴィッツ中尉。ヘルムート・ヴィッツ特務中尉。もういいんじゃないか?君は十分やった」
太った男がゆっくりと、銀髪の女性をたしなめる。
太った男はどうやら名のある将校のようで、かなりの年をとっていて、表情は柔らかく、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
「ペトリャコフ中佐!ここで諦めては全てが水泡に帰しますよ!あなたは責任を取らさ..」
銀髪の女は興奮した様子でまくし立ようとする。彼女の名はヘルムート・ヴィッツ、かつては、誰もが彼女の名前を知っていた。だが今は皆に忘れられ、名前がない亡霊と同じ。
「君の戦争は終わった。終わったんだよ」
興奮し、再び立ち上がったヘルムートに残酷な事実を突きつけるペトリャコフ。
「この鏡で今の君の姿を見なさい、中尉、左腕と左目を無くし、不具の体だ」
ペトリャコフは懐から手鏡を取り出しヘルムートに向ける。
「不愉快です、その目は、気に入りません」
ヘルムートは鏡を見ようともせず、老兵の憐みにあふれた目を刺すように睨む。
「そうかい、開発を延長するにしろ、司令部を説得する材料がないとな。何もないだろ今は」
ペトリャコフは感情的になるヘルムートを軽くあしらいつつ、淡々と言った。
「試作機は、完成しています。ですがあれでは不十分です。性能が、不十分なんです」
少し落ち着きを取り戻したヘルムートが、目線を床の端にそらし、悔しそうにつぶやく。
「試作機?初めて聞いたぞ?性能は?どれくらいだ?」
ペトリャコフが、目を見開き驚きながらヘルムートに問い詰める。
「これくらいです」
恥ずかしそうに、試作機のスペック表をペトリャコフに渡すヘルムートは、まるで教師に遅れた宿題を提出する小学生のようだった。
「ふむ、なかなかいい数値だな、司令部の要求した値をわずかに下
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