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ムードメーカー
第四章

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 阪急は三年連続日本一を達成した、その後でだった。
 上田はその頃を振り返って語った。
「あの時の阪急はほんまに最高の戦力やった」
「山田、加藤、福本にですね」
「大橋やウィリアムス、今井に足立に山口もいて」
「最強の戦力でしたね」
「相当な強さでしたね」
「そこにマルカーノもおった」 
 その彼もというのだ。
「そやからな」
「あの強さでしたね」
「まさに無敵でしたね」
「そうでしたね」
「マルカーノは攻守に活躍しただけやなくてな」
 それに加えてというのだ。
「あいつの明るさもな」
「確かに明るかったですね」
「いつも笑顔で陽気に喋っていて」
「お陰でチームも明るかったですね」
「いい雰囲気でしたね」
「あれもよかった、あいつがおってな」 
 マルカーノ、彼がというのだ。
「ほんまによかった」
「そうなんですね」
「マルカーノもいて」
「それで、ですね」
「最高のチームやった、阪急があれだけ強かったのは」 
 三年連続日本一になるまでというのだ。
「あいつもおってくれたからや」
「マルカーノもいてくれて」
「あの人の明るさがあって」
「それで、ですね」
「それもあったわ、選手としてだけやなくてその人柄でもな」 
 このことでもというのだ。
「素晴らしい奴やった、ほんまに忘れられん奴や」
「そうなんですね」
「上田さんにとってもですね」
「マルカーノさんはそうした人でしたね」
「そやった、ええ奴やったわ」
 上田は微笑んだ、だが。
 視線をやや下にさせてもうそれ以上マルカーノについてはこの時は話さなかった。
 ボビー=マルカーノが四十になるかどうかという時に癌で倒れたことを阪急そして当時の彼を知る者は誰もが悲しんだ、明るく陽気だった彼は残念ながら若くして世を去った。しかし彼のことを彼等は忘れていない。
 ただ攻守に秀でただけでなく陽気で気さくな彼のことを、それは彼が世を去り阪急ブレーブスというチームがなくなっても野球を愛する人達の記憶に残っている。昭和が終わり平成もそうなり令和になった今も尚。


ムードメーカー   完


                   2021・5・11
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