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フランスと共に
第三章

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「あれだけの人物だったがな」
「そうだな」
「若し私、そして卿が陰謀家といいだ」
「彼を裏切ったのならな」
「フランスと共にした」
 自分達の祖国と共にというのだ。
「彼はフランスを誤らせるところだったからな」
「それ故にな」
「我々はフランスと共にだ」
「陰謀を企み」
 世の者が言うにはというのだ。
「そしてだ」
「そのうえでだな」
「彼をフランスから追った、むしろだ」
 タレーランはその目を鋭くさせた、そうして述べた。
「彼程危険な陰謀家はいなかった」
「全くだ、多くの者はこう言っても信じないが」
「裏切ったのは彼だ」
「フランスを誤らせようとしたのだからな」
「自身の野心によってな」
「我々は裏切っていない、また彼は我々を裏切っているつもりはなかったが」
 ナポレオン、彼はというのだ。
「実はだ」
「フランスを裏切っていたのだ」
「誤らせることによってな」
 まさにこのことによってというのだ。
「そうしようとしていたのだ」
「だから卿も私もか」
「フランスと共にだ」
「陰謀を企み彼を追い落としてか」
「フランスを守ったということだな」
「如何にも。だから何を後ろめたく思う必要がある」
 タレーランは欧州でも最高級のものの一つとされるワインを実に美味そうに飲みながら述べた。
「フランスが共犯をフランスを守った」
「それならばだな」
「何も悪いことはない。後は死んだ後でどう言われるかだ」
「間違いなく相当に悪く言われるな」
「それも一興、では今は共に飲もう」
「今はな。しかし何かあれば」
 フーシェは目だけは笑わさせずに応えた。
「その時はな」
「面白い。お互いフランスと共にな」
「卿の為の牢獄は用意してある」
「ギロチン台に興味はあるかな」
「ないと言えばどう答える」
「私も牢獄には興味はない」
 タレーランもまた目を笑わせることなく応えた、そうした話をしながら二人は今は飲んだ。その目は最後まで笑ってはいなかった。


フランスと共に   完


                    2021・5・5
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