第二章
[8]前話 [2]次話
「本当に」
「いえ、三十一になりましたが」
「それでもですか」
「はい、これまでです」
それこそとだ、しのぶは後輩に微笑んで話した。
「そうしたこととは無縁です」
「意外ですね」
「そうですか」
「はい、まあそういう人生もあるということで」
「それで、ですか」
「過ごしています」
こう言うのだった、だが。
しのぶは酒は好きでよく飲んだ、それであるバーのカクテルが美味しいと聞いてその店に行った。すると。
そこには新堂がいた、彼はしのぶを見て瞬時にだった。
心を奪われた、それはしのぶも同じで。
新堂を見てはっとなった、そしてだった。
じっと彼を見たままカウンターの席に座った、だが。
そこで何も言わなかった、それは新堂も同じで。
店の若い娘がしのぶに尋ねた。
「ご注文は」
「あっ、はい」
しのぶは言われて気付いた。
「そうでしたね」
「何を注文されますか」
「そうですね」
少し考えてから娘に答えた。
「ジントニックを」
「そちらですか」
「お願いします」
「ジントニックです」
娘は今度は新堂に言った。
「お願いします」
「・・・・・・・・・」
新堂は返事をしなかった、じっとしのぶを見ている。だが。
「新堂さん」
「あっ、何かな」
名前を呼ばれてようやく我に返った。
「一体」
「注文入りました」
「何かな」
「ジントニックですよ」
すぐにだ、娘は彼に答えた。
「今入ったじゃないですか」
「ああ、そうだったんだ」
「はい、宜しくお願いしますね」
「それじゃあね」
まだ呆然としている、だが。
カクテル自体は流石と言うべき手捌きで作って出した、カクテルはすぐにしのぶの前に置かれた。そして。
しのぶはそれを飲んだ、だがその間もだった。
しのぶは惚けた様な顔で新堂を見ていて新堂もだった。
ずっと彼女を見ていた、そしてしのぶは数杯カクテルを注文して飲んで。
店を出たが新堂はその後で娘に言った。
「あの、さっきの人だけれど」
「どうしました?」
「いや、凄くね」
こう言うのだった。
「奇麗だったね」
「確かにお奇麗でしたね」
娘もそのことは同意だった。
「さっきの人は」
「うん、あんな奇麗な人いるんだ」
「そうですね」
「またこのお店に来るかな」
「あれっ、新堂さんまさか」
娘はここで気付いた、そして。
しのぶもだ、次の日後輩に市庁舎でこう言った。
「昨日素敵な人にお会い出来ました」
「素敵な人?」
「はい、カクテルが美味しいと聞いたバーに行ったのですが」
こう言うのだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ