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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
秘めた想いと現実と
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な匂いが彼女の鼻腔の奥の奥にまで漂流してきた。この羞恥と脈搏を静められるなら、何でも構わなかった。ただ、いつにも増して死に急ぐような脈搏の吐息だけを、一心に聞き入っているのみだった。

何畳かも分からないこの部屋の一帯に聞こえるのは、少女2人の脈搏と吐息とで、他にはただ、通風口を吹き抜ける外気の音とか、換気扇の回る音とか、たったそれぎりだった。
けれどその音の中に、アリアはまた違ったものを耳にしたらしく、おもむろに伏せていた顔を上げた。つい先刻までの感情も忘れて、怪訝そうな面持ちをしながら文に問いかける。


「なんで、笑ってるのよ」


アリアの目から見た文は、歳頃の少女らしくたいそう楽しそうに笑っていた。口角の上がったそれを手で隠しながら、なんとか声を出さないように噛み殺しているらしい。けれども堪えきれなかった一部が彼女の咽喉のあたりを鳴らしていて、アリアが聞いたのはそれのようだった。
「あははっ、神崎さんもやっぱり女の子なんだなぁ──って思っただけですのだ」文は奔放に笑いながら、赤紫色の瞳を見つめ返す。「『恋愛なんて』って言いながら恋バナは反則なのだ!」

咽喉が鳴るほどに息を詰まらせたアリアは、明らかに唖然としていた。そうして何かを口の中で言い淀みながら、吐きたくても吐き出せない、ぶつけられた正論(・・)に対する返事を留めていた。組んだ両手を揉むことが羞恥の示唆だという事実を、自覚する以上に自覚しながら……。
またしても戻り起こった森閑の音色を耳で聴きながら、彼女は羞恥に黙然させられていた。

その最中に、 「如月くんは」と文はやにわに話を切り出す。作業の手はとっくの前に止めていて、お互いに訊きたいことを真剣きって聞くだけの恋愛談義──要するに恋バナに、歳相応ながらに夢中になっていた。「神崎さんのことを護りたい──って、そういう風に言ってたのだ」


「『両親の居ないアリアにとって、他に頼れる人なんて限られているだろうから』、『気位に満ち満ちた彼女の性格からしても、あの子は1人で抱え込んでしまうタイプじゃないのかな』──って。『そうなった時に介抱してやれるのは、彼女のことを少なからず分かっている人じゃないと駄目でしょう』って言ってたのだ。ちょっと恥ずかしそうにしてたから……本音だと思う」


そうした彼の零した本音は、アリアにとって多分に納得のいくものだった。なにより数日前、あの時あの部屋で自分が紅涙を絞った時の、彼の口から洩れた安慰の権化に酷似していた。
『──抱え込んでしまうのが、君自身にとって最悪なんだからね。その相手がいない君じゃないでしょう。気位の高い君のことだから、弱気は見せたくないって言うでしょうけれども……。隣に身を置ける相手がいることも必要だよ。別にそれが如月彩斗でなくても構わな
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