トレギア
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「私の……願い……?」
紗夜は耳を疑った。
「君の心は、私と同じだ。君は、強い劣等感……コンプレックスを抱いている。そうだろう?」
「……」
相手は恐ろしい外見だというのに、紗夜の体は、逃げることが出来なくなっていた。徐々に近づいてくるトレギアと名乗った相手に、脳は危険信号を発し続けているのだが、それ以外の体の器官が、逃げることをよしとしなかった。
「おやおや? この右手は……」
彼の右手が、紗夜の頬を撫でる。同時にその左手が、紗夜の右腕を掴んだ。やがてねっとりとしたその手つきは、紗夜の手首の包帯……正確には、その令呪の上を撫でまわす。
「君も聖杯戦争の参加者だろう?」
「!」
紗夜は手を引っ込める。
「もしかして……貴方も……?」
紗夜の脳裏に、スイムスイムが思い出される。
トレギアの両手が、がっちりと紗夜の顔に張り付く。ぐいっと近づくトレギアの顔に、紗夜は凍り付く。
「ああ。そうか……なら、君をここで始末するべきなのかな? 私は」
「ッ!」
心臓が口から飛び出しそうになる。
だが、その様子をトレギアは愉快そうにせせら笑う。
「ははは! まあ、安心してくれ。君にそんな野蛮なことはしない」
だが、その言葉に紗夜は安心できない。警戒を解くことなく、トレギアの様子を見ている。
「言っただろう? 私は、君の願いを叶えにやってきたと」
「願いを……?」
トレギアの手が、紗夜の頬に触れる。手袋のような手触りが、紗夜にとても冷たく感じられた。
「いい目だ……」
「え?」
トレギアの赤い目に、自らの怯えた顔が見えた。
もう終わりだ。紗夜は本能的にそう感じ取った。
これまで、可奈美やココアに助けられたのは、あくまで幸運だったからだ。本当ならば、ムー大陸に攫われた時点で、こうなる運命だったのだ。
だが、いつまでもトレギアによる死はやってこない。
疑問符を浮かべる間も、トレギアはじっと紗夜の目を見つめていた。
「何を怯えている?」
「……え?」
「ああ……ここで君を始末するのは簡単だが、それだと面白くない……」
トレギアはそう言って、ねっとりとした手つきで紗夜から手を放す。
安心することなどできないまま、紗夜はトレギアの動きを目で追った。
彼は紗夜の周囲をグルグルと回りながら、その姿を見物しているようだった。
「そこでだ……」
トレギアは紗夜の右手を取り、その包帯を外す。
現れた、不気味な紋章が描かれた手首。令呪と呼ばれるそれをじっとトレギアは見つめた。
「私に従ってもらえないだろうか?」
「え?」
「無論、君にも見返りは与えよう」
トレギアは紗夜から離れていく。
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