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イベリス
第十四話 反面教師その二

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「舞い上がって威張ったり金遣いが荒くなったり」
「やりたい放題する人いますね」
「こうした人もね」
「嫌ですよね」
「そうはなりたくないわ」
 強い否定の言葉で述べた、見れば車内の多くの乗客がその中年男を見て眉を顰めさせて嫌な顔をしている。
「本当にね」
「ありのままの自分でありたいですね」
「そうよね」
「どんな風になっても」
「謙虚で理性的」
「やっぱりそれが一番ですね」
「そしてああもね」 
 その乗客をじっと見たまま述べた。
「絶対にね」
「なりたくないですね」
「若しなったらね」
「人間終わりですね」
「ええ。ああした人こそね」
「反面教師にすべきですよね」
「本当にそう思うわ」
 まさにというのだ。
「私もね」
「全く以てそうですよね」
「人間失格よ」
「太宰治でしたね」
「代表作よ。この人教科書に出るから」
 太宰治はというのだ。
「覚えておいてね」
「テストにも出ますね」
「絶対にね」
 教科書に出ているだけにというのだ。
「芥川龍之介とか志賀直哉とかもだけれど」
「太宰治もですね」
「絶対に出るから」
「人間失格もですね」
「覚えておいてね」
「わかりました」 
 咲は先輩に真面目な声で答えた。
「予習しておきます」
「小山さん予習してるのね」
「復習もしています」
 真面目な声のまま答えた。
「そちらも」
「それはいいわね。やっぱり勉強しないとね」
「駄目ですよね」
「私はあまりしないけれどね」 
 先輩はこのことは少し苦笑いで述べた。
「けれど小山さんは違うのね」
「小学校の時から」
 それこそ低学年の時からだ。
「何かです」
「勉強しないとなの」
「いけないって思っていまして」
「それでなのね」
「予習と復習はです」
 この二つはというのだ。
「いつもです」
「しているの」
「はい、そうしています」
「真面目ね」
 先輩は咲のその返事に感心した声で応えた。
「小山さんは」
「真面目ですか」
「ええ、それで部活もちゃんと出てアルバイトも」
「今のところですが」
「出てるのね」
「さぼるのは好きじゃないので」
 それでというのだ。
「それで遅刻はしても」
「出る様にしているのね」
「そうしています」
「真面目ね、やっぱり」 
 先輩はまたこう言った。
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