第六十八話
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「珪子ちゃんでいいのかな」
「…シリカでいいですよ。なんかそっちの名前も呼ばれなれちゃって、なんかアオさんに珪子って呼ばれると少し違和感があるんです」
ニックネームって事で、とシリカ。
「アオさんはいいですね。アイオリアって本名をもじったんですか?」
「そんな所」
以前その名前で呼ばれていた事があるとは言わなかった。
「まあ、それより。シリカはどうしてこんな所(海鳴温泉)に?」
聞けば病院から退院後、リハビリステーションに通いながら何とか体力を戻そうとしていたシリカだが、動かない体にやはり心的ストレスが掛かるだろうと、母親がリフレッシュにと温泉街へと旅行兼リハビリに来ているらしい。
先ほどの手すりに掴まっての歩行もその一環であり、手すりの先に母親が居たのだそうだ。
「アオさんは?」
「俺もリハビリの最中に汗を流そうと寄っただけ」
「この街に住んでいるんですか?」
「まあね。とは言ってもここからはずっと離れているけれど」
ここは山の方だからね。俺の住んでいるあの辺りはむしろ海が近い。
「え?じゃあどうやってここに?」
「ああ、体力づくりのために走って来た」
「え?走って!?もう走れるんですか!?あたしなんてまだ歩くのも精一杯なのに…」
頑張ったからね。
『アオ、どこ?』
シリカとの会話をしていると、久遠から念話が入った。
そう言えばそろそろ待ち合わせ時間か…
俺は腕時計を見ると、シリカに視線を戻す。
「悪い、シリカ。久遠が待ってるみたいだから、俺は行かないと」
「…久遠…さん?…えっと、どなたですか?」
こんな普通ならば学校に通っている時間に待ち合わせをする人間なんて普通は居ないよねぇ。
「ああ、家で飼っている狐の子供だよ。一緒に来ていたんだけどね、森の中で遊んでたんだ」
「え?狐を飼っているんですか?」
「まあね」
「可愛いんですか?」
「まあね。見たいの?」
「勿論です!」
シリカの母親に断りを入れて、車椅子にシリカを乗せてハンドルを握って旅館の外に出る。
そう遠くない観光コースを歩くと久遠との待ち合わせ場所に着いた。
念話で知り合いを連れて行くことを伝えてあるので人見知りの久遠だが、いきなり逃げたりはしないだろう。
カサリと茂みを掻き分けて草むらから久遠が出てくる。
「久遠っ」
「くぅん!」
てとてと俺の方へと歩いてきて、俺とシリカの正面でちょこんと座った。
「はじめまして、久遠…ちゃん?えっと、アオさん、この子って女の子ですか?男の子ですか?」
「女の子だよ」
まあ、普通狐の性別なんて見分けが付かないよね。
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