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歪んだ世界の中で
第十六話 はじめての時その十
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 そのうえで千春から受け取ったその文庫本を開く。そこには確かに芝居用の戯作がある。
 それをちらりと見ながらだ。希望は千春に言うのだった。
「あの、人間じゃないけれど」
「人間じゃなくてもこの世の中にいるんだよ」
「妖怪、いや精霊なのかな」
 日本的ではない言葉だがそれでもだ。希望は今目を通しているその姫を読んだ。
「このお姫様って」
「ううん、妖怪でいいよ」
「妖怪なんだ」
「そう。妖怪だよ」
 こう言うのだった。
「妖怪って怖くないからいいんだよ」
「そうなんだ。怖くないんだ」
「そう。それでね」
 また言う千春だった。希望に対して。
「何かあったらこの人に言うとね」
「このお姫様に」
「助かるよ。この辺りの妖怪達の間で一番偉い人でもあるから」
「だから本当にいるんだ」
「いるよ。千春達いつも助けてもらってるから」
「何かあったらって」
 このことも希望にはわからないことだった。それどころかだ。
 希望には千春が今言っていることすらわからなかった。それでだ。 
 どうしても首を捻る。そのうえでの言葉だった。
「よくわからないけれどね」
「そう。この人に言えばね」
「何とかしてもらえるんだ」
「千春達もそうだから」
 だからだというのだ。
「凄い人なんだよ」
「人なのかな」
 それすらもだ。希望には本当に疑問だった。
「その人って」
「とにかくね。千春に何かあったらね」
「その人のところに行けばいいんだね」
「姫路城の一番上にね」
「そこに行けばいいんだ」
「場所はわかるよね」
「うん」
 言うまでもなかった。その場所のことは。
「姫路城には。さっきも言ったけれど」
「言ったことがあるからだよね」
「わかるよ。問題ないよ」
「それじゃあね」
「うん、じゃあ千春ちゃんに何かあったら」
「その人が何とかしてくれるよ」
「わかったよ。じゃあその時はね」
 笑顔でだ。希望は千春に応えた。そうしてだ。 
 二人はこの日の学校でも楽しい時間を過ごした。しかしだ。
 希望はこの日は昼は真人と共に過ごした。彼のことは忘れていない。
 彼のクラスでその席で向かい合って座り購買部で買ったパンに牛乳での昼食を摂った。希望はジャムパンを食べながらだ。真人に言われていた。
「そうなんだ。写真部で」
「はい。友達が増えてきました」
「よかったね」
「ずっと。写真部で一人で鉄道写真とかを撮ってきましたけれど」
「部活は一人だったよね」
「そうでした」
 写真部には希望はいない。だからだったのだ。
「ですが今は違います」
「よかったね。友井君にも友達ができ
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