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霊群の杜
かしまの噂
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れているだろう。ひょっとしたら『殺す』に一票でも入ったら、もうオシマイかもしれないねぇ」
奉は軽く肩をすくめた。
「…まぁ、そろそろかな、とは思っていた」
「そろそろかなって、お前…」
声が、震えるのを感じた。
そうだ、薬袋が殺されるのは当然の報いだ。俺だってあの男には殺されかけている。なのにいざ軽い調子で『そろそろ』などと云われると、気持ちがざわめいて仕方がない。…何で俺はこんなに落ち着かないんだ。何故『何とか助けられないか』などと考えてしまうんだ。
「寝覚めが悪いなぁ、とは、俺も考えてしまうがね。…だがな、これはもう仕方がない」
「…どうにもならないのか」
「ならないよ。あの男自身と同様にねぇ。あいつがしたことを考えろ。報いをうけて然るべきなんだよ。…俺もねぇ、何も手を打たなかったわけじゃないんだよ」
奉はつい最近まで、客人神としてこの地の一角で何の責任もなく、ひっそりと存在を許されてきた。だが玉群の統べる土地と僅かな関係者を押し付けられ、極めて範囲の狭い産土神にされた…らしい。
「玉群の土地の何処かに監禁すれば、いくらか延命出来たかも知れない。だが書の洞は駄目だ。きじとらは過去に、あの男に殺されかけているからねぇ」
――とんでもねぇな改めて思い返してみると。
「だがそうと決めた途端、奴と連絡が取れなくなった。…僅かな土地しか持たない俺と、真っ当な産土神ではレベルが違うんだよねぇ。もう俺には何も出来ん」
眼鏡の奥の表情が、見えなくなった。あいつが自分の土地に変態センセイを『匿う』ところまで譲歩したことに純粋に驚きつつ、俺は底知れない寒気を感じていた。
土地の神を怒らせるとは、こういう事なのか。
さっき、奉は気まぐれ、躊躇などと云ったが、本当にそんな生易しいものなのか。
「…その、産土神は…本当に薬袋にワンチャン与えるつもりで、かしまの噂を流したのかな」


「違うかもねぇ」


こともなげに云って、奉は頬杖をついた。
「震えて眠れ…ってやつだ、むしろ」



薬袋の訃報を聞いたのは、それから数日後のことだった。

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