かしまの噂
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それはね…」
今泉の話を聞き終えるや否や、奉は踵を返して講堂を後にした。
「…ヤバいことになったねぇ」
そう呟いていたような気がした。
その夜、かしまさん達が、俺の枕元に立った。
『今回のかしまさんは、回答を選べる』
今泉の言葉が脳裏をよぎる。微かな緊張を覚えて、俺は『かしまさん達』と対峙した。
…思った通りだ。それは、腹を裂かれた、あの女達だった。
―――私たちの、名前は?
笑いさざめき、回答を待つ女達。
俺の腹は決まっていた。…正直、少しだけ迷ったが。
俺は小さく息を吸い…静かに、一言だけ云った。
「存じ上げません」
中央の、ひときわ美しい女が、目を見開いた。それでいいのか…それで。念を押されているようだ。だが俺は回答を変えない。というより、変えられないのだ。回答を変えた人間の運命を、都市伝説は語っていない。語られていない行動をとることは、とてもリスクが高いのだろう。多分。
…やがて、女達の誰かが小さく舌打ちして『かしまさん達』は揺らめいて消えた。
午前二時の暗がりに取り残された俺は、まだ肌寒い4月始めだというのに汗をびっしょりかいていた。…俺は、間違えなかった。正解かどうかは分からない。でも対応は間違えていない。だから彼女らは消えたんだ。俺は自分自身に言い聞かせるように、何度も繰り返し呟いた。
「俺は、間違っていない」
今泉が語った、都市伝説の続きは、こうだった。
「枕元に立ったかしまさん達は、本当の名前は『かしま』じゃないだろう?だから、回答を選べるんだ。もちろん、かしまさんですと答えてもいいんだけど、『知りません』て答えることも出来るんだ」
「…かしまさんと答えたら、どうなるんだ?」
「彼女たちを殺した男が、死ぬ」
―――血の気が引くのを感じた。
この話は現在進行形なんだ。彼女たちを殺した男、というのは、とりもなおさず『あの男』しかいない。妊婦たちの腹を裂き、ホルマリンに漬けた『あの男』だ。これは薬袋の罪の話。それは絶妙に形を変えて、都市伝説として明るみに出たのだ。
「知りません、と答えると?」
んー、と唸ると、今泉はまた首を捻った。
「忘れちゃったな。ほら、今回の話って、回答を間違えたらどうとか、自分が死ぬとかじゃないじゃん。なんか熱心に聞いてなかったんだよね。…多分、その男が死なないとかじゃね?」
「……そうか」
「ただこれってさ、あの心理テストみたいだよね」
「心理テスト?」
「トロッコのスイッチ、切り替えるやつ!」
そう云って今泉は、ニッと笑った。
「云い得て妙だねぇ、あの阿呆にしては…ありゃ心理テストじゃないんだが」
くっくっく…と低く笑い、奉はぬるめの茶を啜った。
きじとらさんの
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