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霊群の杜
かしまの噂
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れたんだっけか?海に投げ込まれた?…いや、池に沈められた?とにかく、水に関わる殺され方されたんだ」
「水、ねぇ。今回は水」
くっくっく…と低く含み笑い、奉は腕を組んだ。なにか、収穫があったらしい。今泉は少し視線を彷徨わせると、ふいに俺の方に身を乗り出した。そして栗鼠のように目をクリクリと動かした。…小学生の頃のように。
「かしまってさぁ、戦争絡みのこと多くなかった?殺された軍人とか、爆弾で手足を吹っ飛ばされた人とか」
「俺ら小学生の頃はそれだったな。でも何年後かに聞いたかしまさんは失恋女だった」
「なんで『かしま』なんだろうな、あれ」
「脱線をするな」
奉が軽く机を小突いた。
「何イラついてんだよ…あー、そのかしまさんは、具体的に何をしてくるんだ?また三日後に枕元に立つんだろ?」
「んー、なんだっけな今回は」
今泉がまた斜め上に視線を彷徨わせた。…こういう所、今泉は大人だと感じる。陰キャ眼鏡に言葉少なになじられながら都市伝説語りをせっつかれているのだ。キレてもおかしくないと思うが、見事に『失礼さ』のみをスルーしている。俺なら見逃せない失礼っぷりだというのに。
「…ああ、思い出した。今回のかしまは」
かしまさん、達、なんだって。今泉はそう云って軽く顎にあてていた手を放した。
「水で殺されたんじゃない。殺されたのち、水に漬けられたんだったわ。何人もの『かしまさん』が」
今泉が、所々脱線しながら話した内容はこうだ。


とある墓守の男が、神の妻に恋をした。
神に輿入れした娘の名は『かしま』。
娘は神の子を身籠り、そのあまりの負担に
産む事なく命を落とす。

男はその尊い亡骸に恋をした。
娘の美しい亡骸を惜しんだ男は
娘を火葬した振りをして、
その亡骸を冷たい水に漬けて隠し
毎夜、眺め続けた。

やがて娘の美しさを忘れられない男は
娘と同じように身籠った女を攫っては縊り殺し
腹を裂いて胎児を取り出し
水に漬けて娘と同じ姿に変え、毎夜眺めた。
男は腹を裂かれて死んだ女達を
『かしま』と呼んで慈しみ続けた。


さて。
この話を聞いた人は、その日のうちに
かしまさんの話を三人に伝えなければならない。
伝えなければ、かしまさん達が全員、枕元に立つ。


なにそれ怖い。全員で押しかけるのか。
「…何人立つの?」
「えー、そこまで知らないよ」
大して興味もないのだろう。今泉は自分の話に自分で飽きて大きな欠伸をした。
「今回も、名前を聞いてくるのか?」
かしまさんのお約束パターンだ。名前を答えさせてくるやつ。しかし、中には定型文を一字一句間違わずに答えないと殺しにくる無茶なかしまさんもいるので油断はならない。
「あー…そのパターンもあるんだけど、今回のかしまさんは、回答を選べるんだ。
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