暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
かしまの噂
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
新緑、というにはまだ早い、嬰児の前歯くらいの木の芽がうっすらと校庭を彩る4月。まだ肌寒いキャンパスには、サークル勧誘のチラシを抱えた2年生がウロウロしている。そして初々しい新一年生に馴れ馴れしく絡みつき、通路の両サイドに並べられた各サークルの勧誘ブースに引きずり込む。この光景を見るのは今年で2回目だ。
一年生の頃、この『馴れ馴れしく肩を組まれる』のがどうしても気に入らず、同じく気に入らなかった奉と共にサークル勧誘スペースの裏道を駆使しまくって勧誘を避けていたら、俺達はめでたく『無所属学生』となったのだ。今にして思えば、そこまでムキになって孤立する必要があったのか、ちょっと疑問に思わないでもないが、嫌だったんだから仕方がない。
ちなみに静流は全部断り切れず、一時期10個以上のサークルを掛け持ちする羽目になり、体を壊しかけたそうだ。

この時期、サークル勧誘や一年生のオリエンテーションに関わる上級生はちらほら登校している。しかし履修登録の前だから当然、通常の授業はまだなく、構内は人がまばらである。俺も特に用はないのだが、履修登録の為に今日だけ顔を出した。
一番広い講堂で履修登録用紙に書き込んでいると、今泉がぶらりと現れて俺の隣に掛けた。俺達とは対照的にキャンパスライフを謳歌している今泉はこの時期はさぞかし…と思っていたが、奴は意外にも、所属するサークルでは要職についていないらしく、隣でペンなど回しながら三年の選択科目の登録用紙を睨んでいる。
「かしまさん、また出たよ」
髪の色をまた少し変えた今泉が、気だるげに背を反らした。履修科目はおおまかに決まったらしい。
「出た…って、実物がか」
俺の声にも気怠さが混じってしまった。かしまさん、とはまた、前世紀のフォークロアが出て来たものだ。
「ちげぇよ。かしまさんの噂がってことだよ」

かしまさん。

日本の都市伝説界を代表すると云ってもいい、典型的な怖い噂だ。
『かしまさん』の在り方は、実に様々なのだ。酷い振られ方をした若い女であったり、部下に裏切られて殺された血も涙もない青年将校だったり。
ただこの話は、必ずある定型の締めに落ち着く。
『この話を聞いたら三日以内に、三人に広めなければいけない。さもないとかしまさんが枕元に立つ。その際、ある言葉を唱えないと、かしまさんに殺される』
という、今にして思えば極めて質の悪いフォークロアだ。
「俺、ああいう怪談嫌いなんだよな」
「なに。怖いの」
揶揄うような口調。俺は真顔で見つめ返す。
「あの男とつるんでて、今更怖いものなんかあるか」
「…だな」
幼い頃から…下手をすれば前世から腐れ縁の祟り神に、俺はとりつかれているのだ。一言定型文を口にしただけで消えてくれる怪異など、恐れるに足りない。
「なんかこう…迷惑だろ、ああいうのって。か
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ