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歪んだ世界の中で
第十六話 はじめての時その七
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「そうしよう」
「希望がそうしたいのならね」
「千春ちゃんもいいかな」
「うん、いいよ」 
 にこりと笑ってだ。千春も答えた。
「じゃあそうしよう」
「別にね。ホテルに入ったりとかね」
 結構具体的なことをだ。希望は今は言った。
「それだけじゃないよね」
「そうだよね。ホテルとかね」
「そういうのだけじゃないから」
 また言うのだった。
「だからね。いいよ、それよりも一緒に歩こう」
「そうだね。それじゃあね」
「歩こうよ」
 千春の手を握り締めた。そのうえでだ。
 二人で歩きだした。そうして三時間一緒に過ごした。
 それからだ。二人で映画館に入った。その映画は。
「随分古い映画だね」
「アメリカの映画よね」
「うん。ジェームス=ディーンの映画ってね」
 五十年代アメリカの映画スターだ。若くして交通事故で死んだが今も伝説になっている。言うならば永遠の銀幕スターである。
 そのディーンの映っている看板を見ながらだ。希望は千春に言った。
「やっぱり古いよね」
「ディーンは千春も知ってるよ」
「あっ、そうなの」
「うん、知ってるよ」 
 千春もその看板を見ている。そうして言うのだった。
「ただ。今まで観たことはなかったけれど」
「そうだったんだ」
「うん。それでも今観られるのね」
「そうだよね。はじめて観る映画だね」
「希望もだったの?ディーンの映画は」
「うん、なかったよ」
 そうだったというのだ。希望もディーンの映画は観たことがなかった。しかしだ。
 そのはじめての映画についてだ。二人でその看板を前にして話した。
「けれど今からね」
「御互いにはじめてだけれどね」
「一緒に観よう」
 こう二人で話してだ。そのうえでだった。
 二人は映画館の中に入り隣同士で座った。映画館の中は暗くあまり見えない。だがその中でも二人は手を握り合いだ。そのうえで上映開始を待った。
 その待つ中でだ。千春は希望に尋ねた。
「確か映画のタイトルって」
「エデンの東だよ」
「その映画も知ってるよ」
「僕もタイトルはね」
「千春もね。タイトルだけなの」
 本当にだ。それだけだというのだ。
「それだけは知ってるの。けれどね」
「中身は知らないよね」
「だから楽しみなの。どうした映画なのか」
 それ故にだというのだ。
「今から観ようね」
「そうしよう。あとはね」
「あとは?」
「何食べる?」
 こう問うたのだった。千春に。
「それでだけれど」
「映画を観ながら食べるものっていうと」
「ポップコーンとかあるけれどね。何がいいかな」
「うん、食べるのはいいけれど」
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