特別編 追憶の百竜夜行 其の終
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百竜夜行にも匹敵し得るモンスター達の大移動。死力を尽くし、その脅威から未完成の砦を守り抜いたウツシの同期達は、傷を癒した後――フゲンが主催する宴を存分に楽しんでいた。
里の集会所とその周辺を貸し切り、開催された宴の会場には、酒や魚、そしてうさ団子といった御馳走が大量に用意されていたのである。
うさ団子の山に手を伸ばしては、その味を全力で堪能し。喉を詰まらせては、この地ならではの茶で流し込む。酒に酔い肩を組み、笑い合う者もいれば。手摺りに身を預け、悠然と広がる川を眺めている者もいる。
そんな十人十色の景色を眺め、フゲンも満足げな表情で盃を手に、宴を満喫していた。その鋭くも優しげな眼は、同期達とうさ団子早食い競争を繰り広げている、ウツシへと向けられている。
「……今しか出来ないことかも知れんのだ。悔いのないように……な」
今回の戦いで改めて証明されたことだが、ウツシの同期達は全員、「1年目の新人」の域から遥かに逸脱した実力と才能を持っている。数十年に1人、と言える超弩級の逸材が集中している、極めて特異な世代なのだ。
しかしそれでも、彼らがこの先、誰1人として欠けることなく、ハンターとして活動していける保証などない。「未知の脅威」と常に隣り合わせな世界なのだから、これから起こることなど誰にも予測できないのである。
こうして同期達全員と、同じハンターとして屈託なく笑い合えるのは、今宵が最後なのかも知れないのだ。当人達もそれを理解しているからこそ、全力で「今」を楽しんでいる。
いつか、この宴が遠い過去になっても。自分には、これほどまでに最高な仲間達がいたのだと、どんな時でも思い出せるように。それが、明日に迫る「別れ」の準備であった。
「……例え、世界の誰もが彼らを忘れようとも。この俺は、必ず覚えている。若き身空でカムラの里を守り抜いた、29人もの狩人がいたことをな」
艶やかに咲き乱れる桜と月夜を仰ぎ、酒を嗜むフゲンの呟きは宴の喧騒に掻き消され、誰の耳にも届いていない。しかし、それで良いのだ。
その言葉は、フゲンが己だけに課した新たなる使命なのだから。
◇
翌朝。里の住人達に見送られながら、ウツシの同期達は次々と里を発ち、各々の活動拠点へと帰って行った。
土産のうさ団子が詰まった包みを手に、それぞれの道へと歩み出して行く若者達は、その誰もが優しげな笑みを溢していたのだという。いつかまたカムラの里の皆にも、同期達にも会える日が来ると信じて。
「じゃあ、そろそろオレも行くよ。……世話になったな、ウツシ」
「世話になったのは俺の方さ。しかしアダイト、本当に良かったのか……?」
「お前が逆の立場でも、同じことをしていただろう? オレはただ、自分がこうだって信じた道を歩いてるだけだ」
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