特別編 追憶の百竜夜行 其の九
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ツマァァアッ!」
アダイトの叫びが天を衝くと同時にヤツマの身体は上昇を終え、落下し始めていく。いかに強固なミヅハシリーズの防具といえど、その高さから落下してはひとたまりもない。
それでも受け身さえ取れば、まだ助かる可能性はあるかも知れなのだが。大物の突進をまともに食らって吹っ飛ばされては、そもそも生きている方が不思議なのだ。
もはや、ヤツマが助かることはないのか。そんな可能性を、誰もが想像してしまった――その時。
「……!?」
音色が、聞こえてきたのである。それは紛れもなく、エムロードフラップの演奏によるものであった。
ヤツマという気弱な少年の訓練所時代をよく知っている同期達だからこそ。それは、信じられない光景だったのである。
「ヤツマ、お前……!」
リオレイアに跳ね飛ばされ、空中に放り出されながら。ミヅハシリーズに亀裂が走るほどの衝撃を受けた後なのに。
(俺は……僕は……この里を救うために来た、ハンターなんだッ……!)
ヤツマは生きている、どころか――落下中でありながら、演奏を再開していたのである。意識が朦朧となり、白目を剥きながらも狩猟笛だけは手放さず、彼はアダイト達を強化するための音色を奏で続けていたのだ。
もちろんそんな状態では、受け身など取れるはずもない。このままではヤツマは演奏を続けながら、頭から地面に激突してしまう。
「ヤツマ……あんた、男だよッ!」
これほどの奮闘を見せられては、臆病者などという評価は改めざるを得ない。そう言わんばかりに笑みを浮かべるカグヤは、翔蟲を飛ばして空中に飛び出していく。
「絶対……死なせなるもんかっ! でぇぇえいっ!」
墜落寸前に演奏を完了させたヤツマの身体を、間一髪のところで彼女がキャッチしたのはその直後であった。鉄蟲糸を伸ばして弧を描くように舞い、アダイト達のそばに着地した彼女は、ヤツマの身体をゆっくりと地面に下ろす。
「柄にもない無茶をしおって……ヤツマ、しっかりしろ! 回復薬は飲めるか!?」
「里守達よ、バリスタはもう良い! ただちに此奴を拠点に運べ! 決して死なせるでないぞ!」
「お、おうっ!」
レインが素早くヤツマに回復薬を飲ませている一方で、カツユキは同期随一の勇士の手を握りながら、里守達に指示を飛ばしていた。
その様子を見届けつつ、雌火竜と相対するレノとナディア――そしてアダイトは。それぞれの得物を構え、改めて戦意を高めていく。
「……後で、他の連中にも教えてやるぞ。あのヤツマが、この勝利にどれほど貢献したのかをな」
「……えぇ。もはや誰にも、彼を臆病者と誹る資格はありませんね」
絶対に退けない、負けるわけにはいかない。その信念と決意を新たに、
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