第十一話 アルバイト初日その七
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「日本中の悪いものが集まるのよ」
「そんな場所なの」
「巨人自体が悪いチームだから」
「そうね、巨人っていうとね」
このことは咲も頷いた、実は咲もヤクルトファンであり一家揃ってこのチームを応援しているのである。
「悪いことばかりしている」
「そんなチームだからな」
「お母さんもあそこに行ったことはないわ」
「そうね。あのチームを応援するなら」
咲も言った。
「他のチーム応援するわ」
「そうだな、それで父さんはな」
「神宮しか行ってないの」
「ものごころついた頃からのファンだ」
この言葉には絶対の自負があった。
「だからな」
「神宮以外行かないのね」
「横浜スタジアムには行くけれどな」
ベイスターズの本拠地であるこちらにはというのだ。
「けれどな」
「東京ドームには行かないのね」
「絶対にな」
「それで所沢にも」
「行ったことがないんだ」
「そうなのね」
「だから埼玉への転勤は」
あらためてこのことについて話した。
「本当にな」
「嫌なのね」
「どうしてもな。東京がいいな」
「けれどお仕事ならね」
娘はあえて父に言った。
「やっぱり」
「転勤もあってだな」
「それは好き嫌い別にね」
それでというのだ。
「どんな場所でもね」
「行くものか」
「そうだと思うけれど」
「それはそうだ」
父は娘にはっきりとした声で答えた。
「やっぱりな」
「そうよね」
「だから父さんもこれまで色々転勤してきたが」
「嫌だとは言わなかったの」
「会社ではな」
「そうなのね」
「ああ、だがそれでもやっぱり埼玉はな」
この県はどうしてもというのだ。
「嫌だな」
「本音はそうなのね」
「あそこはな、食わず嫌いというか行かず嫌いでもな」
「嫌なのね」
「どうしてもな、まあ多分東京だ」
次の転勤先もというのだ。
「それでだ」
「お家からなのね」
「通うさ、まあ気楽にな」
「考えているのね」
「ああ、咲もいるし母さんもいてな」
そしてとだ、父はケージの中のモコも見て言った。
「モコもいるからな」
「だからなのね」
「いいさ、じゃあモコ今日は散歩行ったか」
「私が行ってきたわよ」
母が答えた。
「夕方にね」
「朝もだよな」
「そうしたわ」
「そうだな、じゃあ遊ぶか」
そのモコもとだ、父は散歩に行けないことは寂しく思ってもすぐに気を取り直してこう言ったのだった。
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