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歪んだ世界の中で
第十六話 はじめての時その二
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「大正の頃だけれど」
「大正?」
「うん、その頃にね凄いことがあったんだって」
「凄いこと?どんなこと?」
「白杜家ってあるじゃない」
 八条家と並ぶ旧財閥系のグループだ。やはり本拠地はこの神戸にある。
「あの家は今は八条家と仲がいいけれど」
「うん、昔は違ったよ」
「かなり仲が悪かったそうだね」
「敵同士みたいだったよ」
 知っている様にだ。千春は希望に話した。
「その時はね」
「そうだったらしいね。今はお互いに結婚し合って親戚関係になってるけれど」
「あのことだね。あの時にね」
 その時代のことだとわかってだ。千春から話すのだった。
「二つの家は仲良くなれたんだよ」
「八条家の人と白杜家の人が交際して」
「それからだったんだよね」
「白杜家の女の人は若くして死んだけれど」
 千春はこのことは悲しい顔になって答えた。
「それでもよね」
「うん、八条家のそのご子息の一人がその人を最後まで抱き締めていたから」
「二つの家が仲良くなれたよね」
「そうだよね。よかったよね」
「とてもね。あのね」
「あのねって?」
「千春思うんだ。誰かが誰かを好きになるって素晴しいことなんだ」
 千春は希望の隣を歩きながらだ。彼に話すのだった。
「とてもね。素晴しいことなんだ」
「そうだね。僕もそう思うよ」
「だよね。だから希望も千春もね」
「素晴しいことをしてるんだね」
「そうだよ。だから一緒にいよう」
「今も。それでお店に行って」
 そのアクセサリーショップにだというのだ。
「何か買おうね」
「そうだね。何買おうかな」
 千春は今から買うものについて考えていた。
 そうした話をしながらだ。そのうえでだ。二人でその店に向かっていた。
 やがて希望は千春をその白い、何処か中世の欧州の城を思わせる奇麗な外観の店の前に来た。店の看板も白でそこに白とは対象的な黒い字でだ。
 崩れたローマ字で書かれていた。エルザと。
 その店の名前を見てだ。千春はこう言った。
「ドイツ語だね」
「うん、そうらしいね」
「英語とドイツ語って似てるけれど少し違うから」
「このお店の名前はドイツの名前だって聞いてるよ」
「そうだよ。これドイツ語だよ」
 千春もその看板を見ながら話す。
「じゃあお店の中に入ろう」
「それじゃあね。今からね」
 希望も千春の言葉に頷いてだった。
 そのうえで二人で店に入る。店に入ると鈴の音が鳴った。白いその扉の中にかけられているものだ。
 その鈴の音を聴きながら中に入ると。店の内装もだった。
 白かった。そしてあちこちにアクセサリーが飾られツリーや台がありそこにもだった。

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