第一章
[2]次話
たぶの木
彦根の話である。
この街に清凉寺という寺があるがこの寺には古いたぶの木があった。若い僧侶はその木を見て住職に問うた。
「この木はどれだけこの寺にあるのでしょうか」
「数百年らしいな」
住職はすぐに僧侶に答えた。
「何でも」
「数百年ですか」
「拙僧達よりも遥かに古い」
住職はこうも言った。
「間違いなくな」
「人の生なぞ木の生に比べれば短いですか」
「そうだ、しかしな」
「しかし?」94
「古い木は時として力を持つ」
「力といいますと」
「霊力。妖力とも言うか」
住職はその年老いた顔で若い僧侶に話した。
「それを持つ」
「そうした話は」
「そなたも聞くな」
「はい、神木ともなれば妖木ともなる」
「それはそれぞれだ、精となって出ることもな」
このこともというのだ。
「あるのだ」
「古い木はですか」
「そして数百年ともなればな」
「力を備えますか」
「それは充分にある」
こう言うのだった。
「それはな」
「ではこの木は」
「若しや、な」
木を見ながら話した。
「そうやもな」
「神木ならいいですが」
「妖木やもな」
住職は真顔で言った。
「そして妖木ならな」
「その時はですね」
「拙僧も考えがある」
「住職も」
「左様、そうでないことを願うが」
それでもというのだ。
「その時はな」
「そうですか」
「うむ、拙僧が収める」
そのたぶの木を見て言うのだった。そして住職の危惧は当たった。
やがて寺に毎夜小さな娘が出る様になった、娘は寺中を遊び回りあちこちで悪戯を行う様になった、寺の僧達はこの娘について住職に話した。
「あの娘は何でしょうか」
「近頃毎夜寺に来て悪さをしますが」
「近くの村の娘でしょうか」
「それか彦根の町の」
「いや、人ではあるまい」
住職は僧達にこう答えた。
「あの娘は」
「人ではない」
「といいますと何者ですかあの娘は」
「この寺には樹齢数百年のたぶの木があろう」
この木のことを話すのだった。
「木も数百年経つと力を持つ、そして精にもなる」
「ではあの娘は」
「あの娘はたぶの木の精ですか」
「そうなのですか」
「これを木娘と呼ぶか」
木の精をとだ、住職は話した。
「まさにな」
「あの娘はそれですか」
「たぶの木の精でしたか」
「そうでしたか」
「おそらくな、しかし毎夜悪戯をして回って」
そしてというのだ。
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