第三章
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「そしてお前自身にとってもな」
「ええですか」
「百九十九勝より二百勝の方がええやろ」
一勝、それだけの違いだがというのだ。
「そして三百四十八勝よりもな」
「はい、三百五十勝です」
「そやろ、そやからな」
「あと二勝ですね」
「今のお前にはかなり苦しい」
かつての米田なら何でもなかったがというのだ。
「けどな」
「そこをあえて頑張って」
「やってみるんや、そやからお前もわしの誘いに乗ったやろ」
「ほな」
「ああ、苦しい道を歩くんや」
あと少し、米田にこう言うのだった。
米田はその言葉を受けてもう極盛期を過ぎかつ痛風に苦しむ身体に鞭打って投げ続けた。そして一勝を挙げて。
また投げた、そしてだった。
遂にもう一勝挙げた、これでだった。
三百五十勝を達成した、このことは誰もが祝い米田もやり遂げたと思った、それで西本にも言った。
「もう千試合登板はです」
「それはか」
「流石に無理で」
「痛風でやな」
「身体も硬くなってきてるんで」
「もうやな」
「はい、諦めますけど」
それでもと言うのだった。
「よかったです」
「そやな、三百五十勝出来てな」
「正直しんどかったです」
西本の言う通り苦しかった、米田も認めることだった。
「ほんまに、そうですが」
「頑張ってよかったやろ」
「はい、お陰で三百五十勝出来ました」
「それが日本のプロ野球の記録に残ってな」
そしてというのだ。
「皆の目標にもなる、そしてお前自身にとってもな」
「やり遂げたって実感があります」
「そやろ、よかったやろ」
「ほんまに」
「苦しんだ介があったってことや、よおやった」
西本は米田に笑顔で言った、今も米田は飲んでいるが西本は飲んでいない。そのうえで話をしている。
「人間苦しい道を歩いて苦労したらな」
「絶対に得るもんがありますね」
「そやからお前も得た、そしてわしもな」
「優勝目指してですか」
「苦しい道歩いてくわ、お前だけやないで」
西本は笑顔で言った、そうして選手達と共に必死に練習を続け遂に米田の引退から二年後それまで優勝したことのない近鉄を優勝させた、そうして選手達と共に喜びを噛み締めた。
米田哲也は三百五十勝を達成した、長い現役時代はその殆どを阪急のエースとして投げて多くの勝ち星を挙げていった。そして最後の一年で二勝して三百五十勝となった。その最後の一年彼はかなり苦しみ二勝を挙げた、だがその二勝が彼に大記録を達成させ日本のプロ野球史に三百五十勝投手としての名を刻ませることになった。辛かった一年に苦しみながら掴んだ二勝、それはたかが二勝ではなかった。非常に大きな二勝であった。
ガソリンタンク 完
2021・2
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