第二章
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「どないや」
「近鉄で、ですか」
「ああ、どないや」
「あと一年ですか」
「そや、やってみるか」
「お願いします」
米田の返事は一言だった、その昔ながらの顔で西本の如何にも偏屈そうな顔に答えた。
「ほな」
「ああ、あと二勝してな」
「三百五十勝して」
「出来たらな」
「千試合登板もですね」
「やってみるか、お前痛風らしいがな」
それでもとだ、西本は彼の病気のことも話した。
「けどな」
「それでもですね」
「あと少しや、やってみい」
西本は米田の肩を声で叩いた、そしてだった。
米田は近鉄にコーチ兼任で入団した、だがどう見ても彼は引退間近で戦力になるとは思えなかった、しかし。
「あと二勝だから」
「あと二勝で三百五十勝だからな」
「頑張って欲しいな」
「昔の米田だと二勝位何でもなかったけれど」
「今の米田だと難しいだろうけれどな」
「やってくれ」
「頑張ってくれ」
米田を知る者達は彼を見て祈る様に言った、そして。
米田を見守った、もう彼には昔日の面影は殆どなく切り札と言えた独自の変化球ヨネボールもかなり落ちていた。
練習をしていても痛風が苦しかった、兎に角痛んだ。だがそれでもだった。
米田は練習を続け試合にも出た、西本はベンチにいる彼に言った。
「ええか、苦しくてもな」
「それでもですね」
「楽な道は何時でも行けるやろ」
こう米田に言うのだった。
「そやろ」
「はい、辞めたらですね」
「楽になる、けれど苦しい道はな」
「そうやないですね」
「その時やないと歩けん、そして苦しい道を歩いたらな」
「何かが出来ますか」
「そや、そして今のお前はな」
米田に言った。
「あと少しな」
「苦しい道を歩いたら」
「凄い記録を残せる、日本の野球にもええし」
米田が達成出来る記録はというのだ。
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