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ガソリンタンク
第一章

[2]次話
               ガソリンタンク
 投げ続けた、まさにそうであった。
 米田哲也は現役時代ひたすら投げ続けた、その無尽蔵なスタミナからガソリンタンクという仇名さえついた。
 阪急ブレーブスのエースとして活躍し現役晩年になり阪神タイガースに移籍してからも投げ続けていき遂にだった。
 三百勝を達成しさらに投げ続けた、だがその結果だった。
「わしもそろそろ限界やな」
「そうですか?」
「ああ、阪神は好きやが」
 元々阪神ファンだった米田は親しい者にこう話した。
「流石にな」
「もう限界ですか」
「そう思うわ、フロントもわしを自由契約にしたいみたいやしな」
 酒を飲みつつ話した。
「そやからな」
「引退ですか」
「いや、何とか千試合登板とな」
 それにというのだ。
「それで三百五十勝をな」
「達成したいですか」
「何とかな、けどな」
「それはですね」
「もうあかんか」
 こう言うのだった。
「流石に」
「けれど三百五十勝はあと少しですよね」 
 親しい者は米田にこう返した、酒をどんどん飲む彼に。
「そうですよね」
「あと五勝もないわ」
「だったら」
「いや、そろそろ身体が硬くなってきてて」 
 米田は彼に難しい顔で答えた。
「しかも足がな」
「痛風ですか」
「ああ、それや」
 この病気になったというのだ。
「それでな」
「もうですか」
「あかんかもな、けれどな」
「何とかですか」
「千試合登板とな」
「三百五十勝ですか」
「果たしたい、けれどどうやろな」
 難しい顔で言うのだった。
「来年も投げられるか」
「それがですか」
「わからんわ、けれど投げられたら」 
 その時はとだ、米田は目を光らせて話した。
「わしはやりたいわ」
「そうですか」
「絶対にな」
 こう言うのだった、そして。
 米田は練習と彼自身の調整を続けた。だが流石に年齢故の衰えは否めず阪神は米田自身の予想通りにだった。
 彼を自由契約にした、これで米田は引退かと思う者もいたが。
 その彼に阪急時代に監督だった西本幸雄近鉄バファローズの監督である彼が声をかけてきた。
「うちに来るか?」
「近鉄にですか」
「ああ、そしてな」 
 西本は米田に話した、米田は今も酒を飲んでいるが西本は酒は飲まないので食べることに専念している。
「コーチ兼任で投げて」
「そしてですか」
「あと二勝やろ」
 西本は米田を見て彼に言った。
「三百五十勝な、そして出来たらな」
「千試合登板もですか」
「目指すか」
 こう言うのだった。
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