第十一話 アルバイト初日その六
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「あのその辺りの草でもとか」
「そんなことは言わないけれどな」
「それでもなのね」
「やっぱり好きじゃないな」
そうだというのだ。
「どうしてもな」
「そうなのね」
「行かず嫌いだけれどな」
「埼玉ってそんなに嫌かしら」
咲はあくまで埼玉を否定する父の言葉に首を傾げさせて述べた。
「私そうは思わないけれど」
「そこは人それぞれね」
母が言ってきた。
「それはね」
「そうなの」
「そう、そこはね」
どうにもというのだ。
「お父さんはお父さんでね」
「私は私ね」
「そうよ、だから咲が埼玉が好きでも」
それでもというのだ。
「別に構わないわよ」
「そうなのね」
「そう、そして」
それでというのだ。
「お父さんは転勤してもね」
「それでもなの」
「多分ここから通えるから」
自宅からというのだ。
「安心していいわ」
「そのことは安心してるよ、父さんも」
父自身こう言った。
「別に他の地域に行くんじゃないからな」
「関東だけね」
「それも東京近辺だからな」
「じゃあいいわね」
「ああ、だがそれでもな」
「埼玉はなのね」
「行きたくないな」
咲にまた言った。
「やっぱり」
「その辺りの草でもってなるから」
「何か漫画で言ってるな」
「結構流行ってる言葉よ」
「そうだな」
「所沢とか色々言われてるわよ」
その漫画ではというのだ。
「社長さんの出身地としても少なくて」
「そうなんだな」
「それで総理大臣も出していないってね」
「誰かいないか」
「いないみたいよ」
埼玉出身の総理大臣もというのだ。
「どうもね」
「選挙区でもか」
「そこまではわからないけれど」
「そうか」
「どうもね、けれど野球のチームはあるわね」
「ライオンズか」
「そう、埼玉西武ライオンズ」
咲はあえてチームの正式名称を出した。
「ドーム球場だしね」
「緑の芝生が奇麗らしいな」
「いい球場って聞いてるわ」
「そうだな、しかし父さんはヤクルトファンだ」
父の返事は冷静なものだった。
「日本シリーズでヤクルトと西武は三度争ったがな」
「あっちには行かなかったの」
「父さんが行く球場は神宮だ」
一択という返事だった。
「東京ドームも行かないからな」
「巨人の方もなのね」
「誰が行くか、あそこは悪の巣窟だ」
「あのね、巨人の本拠地はね」
母も言ってきた、とても嫌そうに。
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