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イベリス
第十一話 アルバイト初日その五

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 関東の中で一つ抜けている県があることに気付いてそれで言った。
「埼玉は?」
「それはないな」
 父は娘のその言葉に笑って返した。
「絶対に」
「埼玉ないの」
「お父さんは埼玉に縁がないんだ」
「私達の住んでる足立区ってお隣埼玉県よ」
「それでもな、お父さんは基本埼玉だからな」 
 それでというのだ。
「だからな」
「それでなの」
「ああ、これまで十回は転勤してるがな」
「埼玉はないから」
「あそこはないな、埼玉だけはな」
 こう言うのだった。
「絶対にないな」
「そうなのね。ただお父さん埼玉嫌いよね」
 咲は父の言葉をここまで聞いてこう察して述べた。
「そうよね」
「まあそれはな」
「やっぱりそうなのね」
「行ったことがないしな」
 事実そうでというのだ。
「どうもな」
「好きじゃないのね」
「あまりな」
「お父さん実際埼玉には絶対にお話振らないのよ」 
 ここで母も言ってきた。
「昔からね」
「そうなのね」
「ええ、お母さんも思うわ」
「お父さんが埼玉嫌いだって」
「そうね」
「まあお母さんも埼玉は殆ど行ったことないけれどね」
「東京にいるんだったらな」 
 父の今の言葉は強いものだった、それは何があってもというものであり揺るぎが一切ないものであった。
「もう東京を巡ったらいいだろ」
「何か東京絶対主義ね」
「そうか?神奈川も入ってるぞ」
「千葉もなの」
「前は千葉は抜いていたけれどな」
 自分でもこのことを認めた。
「けれどな」
「それでもなのね」
「東京と神奈川、千葉でな」
「埼玉はないのね」
「そうだ、埼玉に行く必要はない」
 絶対にという言葉だった。
「そして仕事でも縁はな」
「ないのね」
「ああ、だから転勤になってもな」
「埼玉はないのね」
「そうだ、埼玉はない」
 娘に笑って話した。
「そこは安心だな」
「まあそうなればいいわね」
 咲は父のその返事にどうなるかわからないと思いながら応えた、だが彼女もまず東京だと思っていた。
「転勤しても」
「ずっと東京にいるとな」
「東京から離れなられないの」
「便利だし愛着もあるからな」
「それでなの」
「もう東京に生まれ育ったらだ」
 もうそれこそというのだ。
「行けないな」
「そこまでなのね」
「お父さんとしてはな」
「埼玉ってあれでしょ」
 ここでだ、咲はこんなことも言った。
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