第二章『銀の海の狂人技師』
episode18『人形狂いのプロローグ』
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握られていたのは、最近流行りの携帯ゲームだった。それがやがて形を歪めて魔鉄の塊と化し、やがて形状を整えてコマの形状を取る。
「……“スプレー缶”」
コマの形が解けて、縦に長く伸びていく。それは円柱状に姿を変えて、やがて何度か見覚えのある害虫駆除のスプレーにその姿を同期させた。
「“辞書”」
先程同様に、スプレー缶がゆっくりと辞書の姿に形を変える。その拍子に刻まれた文字も、以前似たようなものを本屋で見た覚えがあった。
まさか。
「……イメージで、魔鉄の形状変化を?走りながら?」
「見りゃ分かンだろ。そら、10秒経つ」
「あ、ああ。“万年筆”」
彼は顔色一つ変えずに、シンの指定するモノへと手に持った魔鉄の形状を変化させていく。魔鉄の形状を変えるという事だけでかなりの難易度と言われるそれを、十秒という時間制限付き、それも走りながら行うという常人離れした所業。
しかも、この再現度。抱えたイメージの細部のディティールの高さは、あまりにも精細だ。
「……君、は」
呆然と呟くシンの声を聞いてか否か、ちらりとシンへ視線を向けた彼は、一瞬思案するように瞠目すると、「まァ、関わり持ってりゃあ質は上がるか」と即決した様子で、今度はシンに視線を戻す素振りもなく、口を開いた。
「――金糸雀阿蓮。魔鉄加工技師だ」
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