第二章『銀の海の狂人技師』
episode18『人形狂いのプロローグ』
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だらけのコートを羽織って部屋を出る。シン以外に誰も居なくなった部屋で、パタリとソファに横になったシンはその手を天井に翳した。
ぼろぼろの古傷や瘡蓋に包まれた、人間の手。ヒナミがこの手を、シンを、人間にしてくれた。
彼女を守りたい。家族たちを守りたい。
その為に、自分に出来ることは――。
「――。」
ヒナミには、結局切り出せないでいた。
あれほどの苦しく辛い思いを乗り越えて掴んだ平穏が、未だ脅かされる危機にあるなどとどうして言えるものか。たった二か月、ただの二か月しか経っていないのだ。典厩の危惧していた事態が杞憂だとそう言い切ってしまえるほど能天気であればまだ幸せだったのだろうが、そうも言っていられない。
日は沈んで、時は21時を回った頃。「ちょっと散歩」とだけシスター達には残して孤児院を出てきてから10分程度。
難波臨界緑地公園――数十年前に在った大規模な鉄脈術絡みの大事故によって更地になった土地だ。その際の鉄脈術の影響か、極端に土地の生命サイクルが早まっている関係で、四季が他の土地から独立しているのが特徴の緑地公園。
冬場だというのに瑞々しい緑をたっぷりと保ったここは、今は春の陽気の漂う心地いい環境だった。入るまでは必須だった厚手のコートも、ここでは必要ない。
街灯に照らされた通路をぽつぽつと歩く。適度に涼しい風が、考え事をするには丁度いい塩梅だった。
「聖憐、学園」
ここからでもその姿は見える。というか、この緑地公園は位置にして聖憐学園の裏手に広がっている場所なのだ。聞く所によれば一般開放としてはいるものの、この緑地も聖憐学園が管轄しているという話も聞く。
木々のそのまた上を見上げれば、未だ校舎中に照明の灯った聖憐の校舎が聳え立っている。全国に点々と存在する聖学園の中でもかなりの規模を誇る聖憐は、間違いなく製鉄師の養成に関しては一流だ。無論、国が直轄する聖学園である以上、生半可な教育を行うことは許されないという背景もあるのだろうが。
「――どうするのが、正解なんだろう」
これがシン一人の問題であったのなら、すぐにでも聖憐学園に入学を決めても構わなかった。だが製鉄師は二人で一人、今やシンとヒナミは、合わせて一人と言っても相違ない状況にあるのだ。
そしてもう一つ、少なからずシンが懸念を抱いている問題。
『――聖憐は基本的に、自宅からの登校も許可している……ただ、君達の場合は事情が少し変わってくる。安全対策に万全を期すため、寮に入って貰うことになってしまうのは、留意して欲しい』
子供じみた話かもしれないが、シンにとっても、そして恐らくヒナミにとっても、この問題は無視できない。
それほどにシンにと
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