第二章『銀の海の狂人技師』
episode18『人形狂いのプロローグ』
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れが、何か問題が?」
急に話を変えてそんな事を説明し始める典厩に困惑しつつも、その意図を問う。逃げ帰ったと言うのであれば、余計な血が流れることもない。それはそれで喜ばしい事の筈だが。
「君達の事を知る者が、本拠地へと帰った。この意味が分かるかい?」
「――まさか」
「ああ。もう、ヒナミちゃんだけの事情じゃあないって事さ」
逢魔シンと、宮真ヒナミの情報が持ち帰られた。宮真ヒナミの事があちらでどれ程知られているのかは分からないが、スルトルのあの様子では、少なくとも彼を中心とした一派で独占していた可能性もあるだろう。
だがそのスルトルが敗れ、逢魔シンの事が知られた以上、あの時点で逃走していた彼らにも少なくとも伝わる事がある。
ほぼ確実に、スルトル・ギガンツ・ムスペルを撃ち破ったのは、宮真ヒナミと契約を果たした逢魔シンである、と。
無論遅れて到着した別の製鉄師がスルトルを討ったという事も考慮に入れるだろうが、事実としてスルトルを討ったのはシンだ。あそこまで執拗にヒナミを追い続けた彼らに露呈するのは時間の問題だろう。
「君達の勧誘は、おじさん達のような国防を担う製鉄師の都合だ。けれど、君達にとっても悪い話じゃあない筈だよ」
「それ、は」
「おじさんが君に提示するのは、学園の中で育まれる他の製鉄師や魔鉄加工技師とのコミュニティ。そして、いざという時に君の大切な人を守れるようになる為の戦い方だ。聖憐に在籍する限り、学園は生徒の安全を最優先に動くことを約束する」
「――。」
それは、半ば脅迫じみた話だった。
無論、彼が提示した話が事実なのであれば乗らない手はない。乗らなければそれは、シンもヒナミも、この孤児院と家族たちを巻き込む危険を常に冒しながら、抗う術も己の世界以外知らずにこの先を過ごす事となる。
だが、シンはあまりに外の世界を知らなすぎる。他でもないシスターが信を置いている以上悪人ではないのだろうが、何らかの思惑が絡んでいるのは一目瞭然だ。
彼らは、国の守護を担う戦士だ。ただ善意でこの話を持ち掛けている訳ではないというのは彼自身も認めている通り、シンとヒナミに戦力としての期待を掛けている。
彼らの要求に応える過程で、本来遭遇し得る危険以上の何かに出会う可能性も否定しきれないのだ。
――諸々の不安はある。だが、何にせよまずは。
「ヒナミと話して、決めます。彼女にも関わる事だ」
「勿論。返事は急がないよ、可能なら四月の入学に間に合えば良いけれど、遅れても編入という形でどうとでもなる。焦らずに、納得のいくまで話し合ってきてくれ」
優しい声色でそう締めくくった典厩はすっと立ち上がると、ソファの背に掛けた傷
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