第二章『銀の海の狂人技師』
episode18『人形狂いのプロローグ』
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――それは本当に何があった訳でもない、ただただ平凡な毎日の何でもない一時に、不意に訪れた転機だった。
『彼』は、比較的貧困層の家庭に生まれてきた。
あくまで比較的、というだけなので別に生活に困る程貧しいという訳ではないのだが、あまり贅沢は出来ない。
家は借家で、大家ともある程度仲良くやっている。幼稚園の頃は親が家賃を払いに行くのに付いていくと、大家の老夫婦は「あらまぁ」なんて言ってお菓子をくれた。
近所の小学校に通って、友人は多くも少なくもない。少々ハッキリとした性格だったのは自覚する所で、お前は他人との距離感が測れないな、とはよく言われていた。
別にいい。自分に正直に仲良く出来る相手が居るのなら、別に誰もと仲良くなろうなんて思わない。自分に合う相手とは友になり、合わない相手とは話さない、それで済む話。
――そんな少々ませた8歳、まだ世界の事など何も知らなかった子供。そんな彼を変革させたのは、学校前に朝ごはんを食べながら見ていた朝のニュースの特集コーナーだった。
タイトルは『紐解かれる歴史―ラバルナの遺したもの―』
そのコーナー自体は、かつてこの星の全てを支配したというラバルナ帝国の簡単な歴史と、帝国が齎した現代にも残る恩恵を簡潔に纏めただけのものだった。朝の情報番組なんかにはよくある、ありふれた特集の1つ。
けれど、その中でサラリと紹介された『それ』に、彼は目を奪われた。
『――現代でも、魔鉄人形という魔鉄鍛造による……云わばゴーレムは、時折世間でも目にすることがあるかと思われます。ですがラバルナ帝国では彼らをもはや人形の域ではなく、一人の人間として見紛う程に完成させてしまう、云わば“生き人形”を産む技術が確認されており……』
解説は、そこまでしか頭に入らなかった。
流されたのは1本の動画。古い記録装置のようだが、幸い画質は鮮明だったのでよく見える。
そこに居たのは、一人の女性だった。日本人ではないが、海外に行けばどこかには居そうな顔立ちの、パット見ただけでは特に変哲も無いように見える女性。
だが、彼女は人間ではない。いくつもの魔鉄によって組み上げられた人造生命体。理の外の生命。
何か明確な理由があったわけではない、決定的な要因もない。
強いて言うならば――
一目惚れ、だった。
――――――――――――――
あの業火の夜から既にひと月が経ち、カレンダーはつい三日前に一月から二月に切り替わった頃。生来抱えた体質なのか、或いは製鉄師となったことでシンにも与えられた魔鉄の加護の影響なのか――或いはシン自身の鉄脈術が何らかの影響を及ぼしたのかは不明だが、シンの両脚は驚異の治癒力で復活の兆候を見せている
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