第二章
[8]前話
アントノフはその目を見てマーシャの目と同じ目だと感じた、それで墓地の近くに教会があるのを見てそれで教会の中にいた神父に話を聞くと。
神父は彼に悲しい顔で話した。
「あの子は雄でキャプテンといいまして。かつての飼い主のお墓の傍から」
「離れないですか」
「飼い主の人。ミゲール=カズマンという方ですが」
「その人が亡くなられてからですか」
「埋葬されて暫く経ってからずっと」
「ああしてですか」
「家にも帰らず」
そうしてというのだ。
「一日中です」
「飼い主の人のお墓から離れないで」
「余程大事にしてもらったのでしょう」
「大事に想っていて」
「離れません。飼い主の方のご遺族も帰ろうといつも言っておられますが」
「ああしてですか」
「離れません、そして今も」
アントノフが見た様にというのだ。
「ああしています」
「そうですか」
「犬は絆を大事にする生きものですね」
神父は実感する様に語った。
「まことに。実は」
「実は?」
「はい、私の病院にも」
アントノフは神父にマーシャのことを話した、すると。
神父はまた悲しい顔になって話した。
「ロシアでもそうしたお話がありますか」
「はい」
「犬はそうした生きものなのですね」
「絆を忘れないですね」
「何時までも」
二人でこう話した、そして。
キャプテンのところに神父と一緒に行って彼に声をかけた。
「そこまで想われて。その人も幸せだね」
「クゥ〜〜〜ン・・・・・・」
悲しい声で鳴くだけだった、目はマーシャと同じだった。その彼に告げてから神父に向き直った。
「では」
「はい、それでは」
神父と別れの言葉を交えさせて墓地を後にした、そうして。
アントノフは学会が終わるとノボシビルスクに帰った、するとマーシャは今も飼い主が最期の時を迎えた病室の傍にいた。やはり悲しい目で見ている。
その彼女にもだ、アントノフは声をかけた。
「君が想う様にしたらいいよ」
「クゥ〜〜〜ン・・・・・・」
マーシャも悲しく鳴くだけだった、彼はその彼女にご飯と水をあげた。それから自身の部屋に入り仕事に入った。悲しいが確かな気持ちを心に留めながら。
忘れられないから今も 完
2021・6・20
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