第五章 トリスタニアの休日
幕間 待つ女、待たない女
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郎の外套の端を掴みながら、女性は士郎を叱りつける。
顔をグシャグシャにしながら叱りつける女性に、士郎は一瞬呆然とした顔をすると、ふっと小さな笑みを浮かべた。
口の端が微かに曲がる程度の小さな笑みであるが、笑う士郎に、緊張の糸が切れたのか、女性が士郎の胸に顔を押し付け声を上げて泣き始めた。
「し、シロウ……」
戦いを終えた夜の草原に、女性の泣き声が響く。
同じように涙を流しながらその様子を見ていたジェシカが、身体に力が戻ってきたことに気付くと、震える膝を抑えながら立ち上がり、士郎達の下に歩きだそうとし、視界が切り替わった。
「……また」
見たことも無い部屋だった。
不思議な感触の板? が敷き詰められ部屋の中心には、士郎を膝枕しているシエスタ似の女性がいた。シエスタ似の女性は、士郎を膝枕しながら鍋をかき混ぜている。片手で天井から吊るされた鍋? のようなものをかき混ぜながら、もう一つの手で士郎の白い髪を優しく撫で、シエスタ似の女性が、小さく囁くように歌っている。
頬を濡らす涙の跡を拭いながら、ジェシカは士郎たちに向かって歩き始めた。
そんなジェシカの耳に、女性の歌が入り込んでくる。
――ねんねんころりよ おころりよ――
――ぼうやはよい子だ ねんねしな――
……これ。
――ぼうやのお守りは どこへ行った――
――あの山こえて 里へ行った――
……聞いたことある。
――里のみやげに 何もろうた――
――でんでん太鼓に 笙の笛――
……お母さんが……歌ってくれてた……。
「……どうして、この歌を」
ようやく収まり始めた涙だったが、女性の歌を聴いているうちに、突き刺すような痛みが胸に広がり、目頭に抑え難い熱が溜まり……溢れだした。
頬に流れる熱い感触に手を伸ばすと、また、涙が溢れ出していた。
それは、先程のような悲しみの涙ではなく……。
流れる涙を手のひらでこすりながら、ジェシカはシエスタ似の女性に向かって近付いていく。女性の隣に座ると、下から覗き込むように女性を見上げる。
「あなたは……一体誰なの?」
赤くなった目を細め、首を捻る。
「あたしと同じ黒い瞳と黒い髪を持つ……シエスタによく似てるあなたは……?」
眉根に皺を寄せた顔をしながら、視線を下に向けると、気持ちよさそうに眠る士郎がいた。
あ、あれ? 怪我がない? どういうこと?
視線の先の士郎には、見た限り怪我があるようには見えない。服に隠れていないところ以外にも、士郎は全身に怪我を負っていた。それがない……と言うことは。
時間が立っている? それもそれなりの時間が……っていうことは……あれから、ど
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