第五章 トリスタニアの休日
幕間 待つ女、待たない女
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付けた。
女性は、一人で草原の中に立っている。
一人草原に佇む女性は、悲しげな顔で半分になった月を見上げている。
女性の頬に月光があたり、きらきらと輝いている。
泣いてる?
ジェシカは見とれていた。
音もなく、声もなく涙を流しながら月を見上げる女性の姿が、あまりにも絵になっていたから。
どれだけ見ていたのだろうか、空高く流れるいくつもの雲が、すっかりと流され消え去るほどの時間がたった時、不意に草を踏む音が聞こえた。
シロウ?
「士郎さん?」
背後に聞こえた足音に、ジェシカと女性は、同じ男の姿を思い起こしながら振り向いた。
――グロロォォォオオ――
しかし、そこには思い起こした男の姿はなく。
「ヒッ」
「え?」
手足が異常に長い、異形の化物が立っていた。
目の前に立つ異形の化物の姿に、後ずさる女性だったが、何かに足を取られ尻もちをついてしまう。
「あ、い、いや」
尻もちをつき、後ろ手に這うように下がる女性に、化物が身体を屈めながら近付いていく。
「あ、ああ」
ぱくぱくと女性は口を閉じては開けているが、口からは意味を成した言葉が出ない。
化物はゆっくりと口を開き始めた。口から覗く鋭い牙に、泡立つ涎がねっとりと糸を引いている。
絶望に顔を青くした女性の口が、小さく動く。
恐怖に歪む女性の顔が一瞬笑った気がした直後、口を大きく開けた化物が女性に襲いかかり。
「ハアアッ!」
上下に身体を分かたれた。
「え?」
化物の腸や血を浴びながら呆然とした声を漏らし、ゆっくりと顔を上げた女性の前に、
「無事か?」
両手に白と黒の剣を持った士郎がいた。
「あ……は、はい。だ、大、丈夫です」
怒涛の如く流れる状況の変化を持て余し、士郎を見上げた形で女性は頷く。軽く目で女性に怪我がないことを確認した士郎は、女性に背を向けた。
「し、士郎さ……え?」
背を向けた士郎に、気を取り直した女性が声をかけようとしたところで、星明りが届かない奥から、先程の化物と同様の化物が現れる。
目を大きく開き、身体を抱きしめ震えだす女性。先程の恐怖を思い出し、見開かれた目の端から涙が溢れ出す。ガチガチと鳴る歯の隙間から、声にならない悲鳴が漏れ出している。
「ひっ……ぃ……ぁ……」
化物たちの数は多い。
二、三体程度ではない。
十体以上はいる。
こちらに向かって近付いてくる化物に耐え切れず、恐怖の悲鳴を上げようと口を開いた女性に、士郎が背を向けながら声をかけた。
「大丈夫だ」
「え?」
いつもと変わらない、落ち着いた様子で、優しく語りかけてくる士郎に、悲鳴を上げようとする口
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