第五章 トリスタニアの休日
幕間 待つ女、待たない女
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寄る女性が現れた。
「まだ怪我が治っていないんですよ。無茶をして、傷が開いたらどうするんですか」
「あ、ああ。すまない……ちょっと身体を動かそうと思ったんだが、どうにも止まらず……」
背伸びをしながら士郎の顔を流れる汗を拭きながら、女性が士郎を嗜めている。女性に手ずから汗を拭かれる士郎は、赤くなった顔を背けながら何やら言い訳をしている。
ちょっとムカつくわね……でも、本当に似ているわね。
そんな二人のやり取りを見ていたジェシカは、日の光で現れた女性の顔を改めて確認し、首を傾けた。
顔は怒っているが、目は優しく士郎を見つめる女性は、ジェシカの従姉妹であるシエスタによく似ていた。自分と同じ黒い瞳と黒い髪や素朴で愛嬌のある顔立ち、日の光を反射させるほどにきめ細かい肌も、シエスタによく似ている。
違うところといえば、精々シエスタにあるそばかすがない所ぐらいだろうか。後は、こちらの方が一、二歳年上に見えるとこや、身長がこちらの方が高いといったところだろう。
「昨日も夜、どこかに出かけていたでしょう。一体どこに行ってたんですか?」
「いや、その、それはな。い、色々あるんだ」
「何が色々ですか、一緒の布団で寝てたのに、起きたら居なくなってるなんて……本当に怖かったんですよ……」
「……すまない」
一緒の布団?
……あんにゃろう、このシエスタ似の人にも手を出していたんだ……どうしてくれようか……。
顔を伏せ、悲しげに呟く女性に、士郎は髪を優しい手つきで撫でながら謝罪している。
女性は頭を撫でる士郎の手を掴み、おずおずと顔を上げると、士郎の手を胸に抱きながら士郎に寄りかかった。
「……許しません」
「そ、そうか」
肩を落として落ち込む士郎の頬に手を伸ばすと、女性は真っ赤な顔で優しく笑いかけ。
「だから……今日の夜は、しっかり愛してください」
そう囁き、士郎の唇に軽くキスした女性は、真っ赤に染まった顔を両手で隠しながら駆け出していった。
呆けたように立ち尽くす士郎の下から、ジェシカに向かって駆け寄っていく女性。士郎と同じように呆けたように立ち尽くすジェシカの横を、女性が駆け抜けると、我に返った女性を追うように振り向き、
「……また?」
視界が切り替わった。
今度は最初と同じように、空に一つしかない月が輝く夜だ。
「やっぱり一つしかない……あれ? 形が変わってる」
月は初めて見た時のような満月ではなく、半分が切り取られたように欠けた月が浮かんでいる。
足元で騒ぐ草の感触に、最初と同じ場所に立っていることに気付いたジェシカが、もしやと思い辺りを見渡すと、
「あれ? シロウじゃない?」
期待した士郎ではなく、シエスタ似の女性を見
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