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剣の丘に花は咲く 
第五章 トリスタニアの休日
幕間 待つ女、待たない女
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夫で、すか」

 息を切らしながら近付いてくる女性に、士郎が振り向くと、何か言おうと口を開き、

「シロウッ!」
「あっ」

 何も言わず倒れた。
 うつ伏せに倒れた士郎に、ジェシカとシエスタ似の女性が駆け寄る。ジェシカの手は、やはり触れることは出来なかったが、シエスタ似の女性の手は触れられるようだ。シエスタ似の女性が、士郎の甲冑や服を脱がせていくと、化物の血で紛れてわからなかった、士郎の傷が見えた。
 あの化物の剣のような爪でやられたのだろう。五つの深い傷跡から、血が止めどなく溢れ出している。
 シエスタ似の女性は、自分の服を破ると、士郎の傷の応急手当を始めた。

「し、しっかり、して、くださいっ!」

 止血をあらかた済ませたシエスタ似の女性は、士郎の肩を持つと、士郎を引きずるようにして歩き始めた。

「あ! ちょっと」

 置いていかれたらと思い、時折士郎を励ますように、声をかけながら歩くシエスタ似の女性に向かって伸ばしたジェシカの手が、シエスタ似の女性に触れ、

「あ……れ?」

 られず、たたらを踏み、
 
「ちょっ、え?」

 戸惑いの声を上げた。
 自分がいたのは草原だった。なのに、今、自分がいるのは……目に映るのは。

「は? ……朝?」

 寒々と感じる程葉が落ちた木々が、空から降り注ぐ陽光に照らされている森の中に、ジェシカは何時の間にか立っていた。青々と茂る草から、幾重にも積み重なった落ち葉の上に。闇の中から日の光の下へいきなり移動したジェシカは、視界の急な変化にしきりに瞬きしている。
 未だ理解していない頭で、ジェシカは歩き始めた。周りを確かめるように、しきりに首を回しながら森の中を歩いていくうちに、空気を切り裂く様な鋭い音が聞こえ始めた。目的のないまま歩き始めたジェシカは、誘われるように音に誘わるように歩いていく。
 そしてポッカリと木々が生えていない、開けた場所に辿り着き。
 
「……シロウ」

 そこで一心不乱に剣を振るう士郎を見付けた。



 上から下、右から左。
 両手に持つ白と黒の剣を同時に振るい、時にバラバラに振るう。
 まさに目にも止まらない速さで剣を振るう士郎を、木に寄り添うように立つジェシカが見つめていた。
 剣を振るう士郎とは、かなりの距離があるにもかかわらず、士郎が剣を振るう度に、巻き起こった風が髪をよそぐ。乱れる髪を押さえ、剣を持って舞う士郎に、ジェシカは見とれていた。
 どれぐらい時間が経ったのだろうか、士郎の体から白い湯気が出てきた頃、突然剣を下ろした士郎が、ジェシカに顔を向けた。いきなり士郎から顔を向けられたジェシカは驚き、後ずさるように数歩後ろに下がると、

「士郎さん」

 長い黒髪を揺らし、士郎に駆け
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