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ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode17『来年の事を言えば鬼が笑う』
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端だった。

「……でも、まだあんまり体力も戻ってないでしょ?私もそうだけど、あんまり無理はしない方が」

「あぁ、違うんだ。その行きたい場所って言うのは、ちょうどここの病院なんだよ」

「……?」

 大阪中央病院。
 ここでの入院生活が始まってから、二週間と少しが過ぎた。足の負傷が特に深刻だったシンや智代はまっとうに歩くことも出来ず、ベッド上での生活を余儀なくされていた。智代に関しては片足を失うという大きすぎる負傷ではあったが、幸いにも魔鉄によって作られた義足はすぐに見つかり、リハビリさえ済めば、もう歩く分には問題はないという。

 ただ、足を失ったという程ではないものの、シンも十分に大きすぎる負傷だ。両足の複雑骨折、全身の無数の傷、手術は困難を極めたという。

 ずっと個室で釘付け状態になっていたのだ、気分転換に外に出たい気持ちもあるだろう、と思って、この散歩に出てきた――訳なのだが。

「病院、の中なの?」

「うん、そう。前から来るべきだとは思っていたんだ、けどどうしても勇気が出なくて、来れなかった」

 情けなさそうにシンは頬を掻いて、力なく笑う。前から来るべきだった、という事は、ここに入院するよりも前からここを訪れるつもりだったという事なのだろうか。
 前々からあった全身の傷の事だろうか、とも考えたがどうにも違う。シンは病院を怖がるタイプではないし、今から行きたい、という事であれば傷は関係ないだろう。だがそうなると、一体どんな目的で?

 疑問そうに首をかしげるヒナミに苦笑したシンは、少しためらう様に首を下げて、しかしやがて観念したようにぽつりと、その意図を零した。

「前に、僕と契約しようとして、失敗した魔女の子が、ここでまだ入院してるんだ」

「あ……」

 名は確か、“ヨシカ”と言っていたか。
 シンとの契約に失敗し、彼の世界に?み込まれて深い傷を負ったという、魔女(アールヴァ)の少女。彼と垣間見た精神の世界で見たヴィジョンでは、確かに相当悲惨な負傷を負っていた筈だ。
 幸い、契約に成功したからなのかヒナミの負傷は彼女ほどではないが、それでもこの有様だったのだ。当の彼女がどれほど傷ついたのか、想像もつかない。

「ずっと、謝りたくて。でも僕の姿を見れば、余計にあの子を怖がらせてしまうんじゃないかって。これ以上傷つけてしまうのが……ううん、違うね。これ以上、罪を重ねてしまうのが、怖かった」

「……そっか」

「正直、まだ怖い。また誰かを傷つけてしまう怖さは、薄れてないんだ。でも……今、踏み出さなきゃ、きっと僕は永遠に胸を張って生きていけない――皆を守れるくらい、強くなれない」

 拒絶される恐怖、罪を重ねる恐怖、重なり積もるたくさんの怖さが、シンの脚を竦ませる。
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