暁 〜小説投稿サイト〜
ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode17『来年の事を言えば鬼が笑う』
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
象だ。

「もう、あの人はいない。二度と、悲劇は繰り返さない」

 “――逢魔シンを極限にまで追い込み、契約を促す。最悪の事態が発生するに至りかけた場合にのみ介入し、これを防ぐ”

 “その他許容範囲内であれば、如何なる損失もこれを無視する。極限状態を緩めてはならない、最大限にまで追い込み、契約(さいごのしゅだん)に縋らせる”

 これが、白崎典厩に打てる最善の手だった。

「……智代ちゃんの容体は?」

「魔鉄義足は手配済みよ、慣れればすぐに元通りの生活に戻れるわ。足以外は、さほど大きな怪我もなかったしね」

「そうかい、そりゃよかった。流石に智代ちゃんまで死んじまったら、後であの子らになんて言われるか――」

「学園長」

「――っと」

 不意に、背後から声が掛かる。
 振り返ればそこに居たのは、片目に刻まれた深い切創と眼帯姿。聖憐学園にて白崎夫妻のサポートを行う、学園長補佐――九条悟(くじょうさとり)だ。
 彼女はいつもの朗らかな様子をしまい込んで、至って真面目そうな表情を取り繕っている。彼女がこういう露骨に気を引き締めた様子の時は、決まってその用件は一つ、決まっている。

「来客かい?予想はつくけど、誰だ」

「――黒崎暗音(くろさきくろね)様が、お見えです」

「……女狐め、地獄耳にも限度がある」

 ふぅ、とため息を一つ吐いて、雑ではあるが軽く身なりを整える。見知った相手とはいえ、相手は重役……それもとびきりの曲者だ。気を引き締めて掛からねばならない。下手なことを言えば、すぐに首元に喰らいつかれる。

「応接室に通してくれ、おじさんもすぐ向かうよ」

「既にご案内済みです。ただ、黒崎様からは『今日はのんびりは無しだ、分かっているな?』、と」

「おぉ、怖い怖い」

 乾いた笑いを漏らして、ソファに脱ぎ捨てたおんぼろのコートを拾い上げる。
 まだこちらの戦いは終わっていない、今回の騒動でまた色々と面倒事が舞い込んでくるだろう。その前哨戦がこれだ、と腹をくくる。

「――そろそろ、引退してもバチは当たらないんじゃないかなぁ」

「何言ってるのよ、まだまだやる事はいっぱいあるのよ」

「はは、手厳しいや」





 ――――――――――――――





 時は、少し流れる。

 年も明け、三が日を越えて1月17日。漸くシンもヒナミもその怪我の容体が落ち着いてきて、ヒナミは自力で歩ける程度に。シンは、車椅子であれば外出を許可される程度には回復してきた頃だった。

「行きたい所があるんだ」

「行きたい、ところ?」

 ヒナミに車椅子を押されながら、中庭を散歩していた時。雑談の折、不意にシンがそう切り出したのが事の発
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ